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フランス銘醸地を語る vol.17 「ロワール渓谷」編

  • 2021.08.16

    「フランスの庭園」と呼ばれるロワール地方。

    全長1,000kmに及ぶフランス最長のロワール川の川沿いには、様々な歴史的背景を持ついくつもの壮麗な古城が立ち並び、両岸に美しいブドウ畑が広がっている風光明媚な地域だ。ロワール地方の観光として最も有名なのが、その古城を巡るツアーである。お城自体がワイン名にもなっているものもあり、ツアー中にシャトーのワインをテイスティングできるのも、人気の理由だ。ワインラヴァーも充分に満足できるロワール観光の名物となっている。 

    私がロワール地方に初めて訪れた時、その長い歴史の中で、変わることなくそこに存在し続けてきたであろう美しい景観と独特の雰囲気に、非常に感動したのを今も覚えている。もし私がこの地方のワイン全体のイメージを一言でお伝えするならば、「純粋でエレガント、身体に染み渡るような優しい味わい。」と表現するだろう。遠くフランスの地で生まれたワインであるにもかかわらず、心地よく身体に馴染むこの感覚は、すごく不思議な感じもするが、それがロワールのワインの魅力だと私は思っているし、この地のワインが自分と相性が良いのだとも考えている。

     ではここで、ロワール地方のワインをこれから勉強しようという時の秘訣について、少しお話をさせていただきたいと思う。

    ロワールのワインは、日本にもたくさん輸入されており、日本の食材にも相性が良いものが数多く存在する。基本的な知識があることで、より楽しみが広がることは間違いないだろう。

    ロワール地方には、たくさんのA.O.C.(原産地呼称)ワインが存在し、それぞれのワイン名と品種を一つ一つ覚えようとすれば、きっとほとんどの方が苦労するだろう。そこでおすすめなのが、地区ごとにそのエリアで主に栽培されているブドウ品種を先に抑えてしまい、それから代表的なA.O.C.ワインを覚えていくという方法だ。


    まずはロワール川に沿って、東西に広がる四つの地区の名称を覚える。一番西の海側に位置するのがペイ・ナンテ地区、そしてそのまま内陸に向かうと順にアンジュ&ソーミュール地区、トゥーレーヌ地区、一番内陸にあるのがサントル・ニヴェルネ地区である。そして、ペイ・ナンテ地区はミュスカデ、アンジュ&ソーミュール地区はシュナン・ブランとカベルネ・フランというように、エリアと品種とをセットで記憶することで、ワインのキャラクター自体も同時にイメージしやすくなる。そしてそれぞれの品種のワインを実際にテイスティングすれば、香りや味わいと一緒にしっかりと理解することができるだろう。

     ロワール地方には、スパークリング、白、ロゼ、赤、そして甘口と、非常にバラエティ豊かなワインが存在する。その中でも突出したクオリティを誇るものに「貴腐ワイン」がある。「ロワール三大貴腐ワイン」と呼ばれるボンヌゾー、カール・ド・ショーム、コトー・デュ・レイヨンは、どれも非常にクオリティの高い甘口ワインを生み出す。

     ある日、カール・ド・ショームの有名な生産者の方とお会いする機会に恵まれ、とても印象的だったのは、「ブドウが貴腐化するタイミングが粒ごとに違うため、収穫期に何度も畑に足を運び、ピンセットを使って粒単位で収穫を行う」ということ。そこまでして生まれてきた貴腐ワインは、やはり素晴らしい香りと味わいであることは言うまでもない。

    シュナン・ブランから造られるこの芳醇な甘口ワインは、カリンやキンモクセイの香りが華やかに広がる、とても魅惑的なワインだ。

    デザートそのものとしても楽しめるワインだが、リンゴのタルトにシナモンのアイスクリームを添えて一緒に味わえば、まさに最高のマリアージュを体験できるだろう。

     

     

     

    記事著者

    • 田邉 公一

      ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」講師。また、都内レストランや企業ドリンクアドバイザー、各種飲料のイベント監修、コメンテーター、執筆、プロモーションなど幅広く活躍。日本酒の難関資格「SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL」の1 人。2007 年ルイーズ ポメリーソムリエコンクール優勝。