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フランス醸造地を語る vol.1 ブルゴーニュ編

  • 2019.03.05

    ブルゴーニュワインは、世界中の人々の垂涎の的となり続けてきた。


    それは飲み手からだけではなく、フランス国内だけでなく、世界のワイン生産者からも、常に目指すべきワインとして誰もが憧れる存在であり、そこにワインという存在の一つの完成された姿を見る者も少なくはないだろう。


    ブルゴーニュを代表するピノ・ノワール、シャルドネ、単一ブドウ品種から生まれる赤、白それぞれのワインは、一見シンプルに思えるが、実は、そのブドウが生まれる畑の気候風土や、誰が造るか等、その要因によって実に様々なスタイルのワインが生まれ、その個性は、無限に広がる大地そのものと言えるくらい実に多様である。


    一貫して感じられるのは、芳醇でエレガント、包みこむような香りと味わい。

    それを口にした瞬間から、誰もがその魅力に惹きつけられる。


    私がブルゴーニュに初めて訪れたのは、今からおよそ16 年半前、ワインエキスパートの資格にチャレンジする直前、一次試験まであと2 週間に迫った頃、人生で初めてフランスへ旅立ち、フランス各地のワイン産地を巡りながらソムリエ修行をした時だった。


    一番印象的だったのは、そこで生活する人々のあふれる優しさ。

    当時まだ24 歳の私は、初めてのフランス旅行で右も左も分からず、サングラスに無精ひげを生やした遠くアジアから来た若者。日本であれば、たとえそこが田舎であっても、不審がられて話しかけることはおろか、誰も近寄りさえしないはずである。

    ところが、突然の訪問にも関わらず快い笑顔で迎えいれてくれ、熱心にワインを見つめている私に、無償の愛を持って好きなだけ自分達が造ったワインを試飲させてくれた。

    畑を歩きながら村から村へと向かっている際に道に迷ったときも、道行く人たちが親切に声をかけ教えてくれる。

    しかもそういった経験は一度だけでなく何度もである。


    ワインの世界に「テロワール」という言葉がある。


    これは、ワインとなるブドウが育つ環境全てを表す言葉として使われているが、そこには土壌や天候など、ブドウ畑をとりまく環境要因だけではなく、その土地でワインを造る人々も含まれる。


    テロワールに「人」が含まれることを私が強く意識し始めるようになったのは、このブルゴーニュでの経験があったからに他ならないし、世界が目指す偉大なブルゴーニュワインの香りや味わいには、このブルゴーニュ地方の人々の優しさや人柄を常に感じることができる。


    そして、ブルゴーニュ地方のワインの特徴としてあげることができるのは、「畑に格付けが存在する」ということ。フランスのワイン法であるA.O.C.( 原産地統制名称) の中でも、ここまで細分化されている地方は珍しい。例えばボルドー地方であれば、村名がその最小単位にあたる。それに比べてブルゴーニュ地方は、さらにその村の中に存在する畑が、一級、特級として細かく分かれ、そこに名称が存在し、それぞれの畑から生まれるワインの個性は驚くほど異なる。


    さらにブルゴーニュワインの特徴としてもう一つ挙げたいのは、ラベルの生産者名のところに『Père & Fils』(父と息子)という表記、もしくはそれに類似する表記をしているものをよく見かける。

    これは他の国だけでなく、フランスの他の地方でさえもあまり見かけることはない。

    つまり、ブルゴーニュ地方の人々がこのワイン造りというものを家族としていかに大切にし、それを先代から受け継ぎ、自分たちの時代だけのことを考えるのではなく、次世代へと繋いでいこうとしているかがここに強く現れている。


    恵まれたテロワールと、そこに根付いたブドウ品種、細分化された畑、時代を越えて引き継がれるワイン造り。

    複雑にも思えるが、ここにブルゴーニュのワインの大きな魅力が存在しているのは間違いない。

    記事著者

    • 田邉 公一

      ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」講師。また、都内レストランや企業ドリンクアドバイザー、各種飲料のイベント監修、コメンテーター、執筆、プロモーションなど幅広く活躍。日本酒の難関資格「SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL」の1 人。2007 年ルイーズ ポメリーソムリエコンクール優勝。