2021年6月14日(月)2020年プリムールのワインをテイスティングしながら、プロの皆さんによるトークセッションをオンライン配信しました。
【ゲストパネリスト】ワインジャーナリスト 山本昭彦さん/「ロオジエ」ソムリエ 井黒卓さん/「銀座レカン」ソムリエ 近藤佑哉さん
【進行】ルグラン・ジャポン 前川大輔さん
プロならではの視点でプリムールのワインの評価や、注目の銘柄など視聴者とのQ&Aを交えながらお話しいただきました。あまりに夢中になりすぎたので、写真が少なくてすみません!
ー そもそも、プリムールとは?
前川:2020年プリムールは、昨年収穫したブドウで造った、まだ樽の中で熟成されているワインを先に販売するボルドー独自の仕組みですね。もともとはシャトーの資金繰りという意味合いもありましたが、この仕組みについて山本さんはどう思われますか?
山本:プリムールの期間中は世界中のワイン専門家の興味がボルドーに集中するので、プリムールに参加するという意欲が高まります。お祭りのようなものです。ペトリュスのような生産量の少ないワインはこの機会に買わないと市場に出回る時期にはほぼ売り切れている。世界中にワインを売りたい生産者は使えばいいし、ブルゴーニュのように信頼できる取引先を選びたいところは必要がない。このシステムには賛否両論あるかと思いますが、良い悪いというものではなく、使いたい人は使えばいいと思います。ボルドーの中でもシステムを選択する動きがありますね。
前川:実際、シャトー・ラトゥールは2011年ヴィンテージを最後にプリムールには参加していませんね。
山本:理由は飲み頃になったものをリリースしたいということでしたが、プリムールに頼らなくても金銭的な余裕があるというのも大きいと思います。
井黒:プリムールは値ごろ感が魅力の一つです。熟成させる心配はあるかもしれないですが、TERRADA WINE STORAGEならば保管環境がしっかりしているので、そういう場所に預ければいいのではないかと思います。
近藤:「あのワイン今どうしてるかな?」と、熟成過程を楽しむのもプリムールの魅力だと思います。
写真:テイスティングしたワイン。「ECHANTILLON」とはフランス語で試供品、サンプルという意味です。
ー 2018、2019、2020はトリロジー(フランス語で3部作)2020年は突出した完成度の高いヴィンテージ
山本:2020年は1部の説明でもあったように暑く、乾燥していたので、干ばつに耐えられる土壌、保水性の高い粘土質の土壌を有しているサン・テステフ、マルゴー、ペサック・レオニャンの出来が良いと思います。とはいえ、サン・ジュリアン、ポイヤックのトップシャトーは安定しています。私の印象では右岸はポムロルの方がサン・テミリオンよりも良いと感じます。
2018、2019、2020はトリロジー(フランス語で3部作)と言われているが2020年は特にバランスが取れています。とりわけメドックは8月、9月の夜は冷えたのでタンニンは熟していてアルコール度数は高いがフレッシュなブドウに仕上がっていて、クラシック。どこをとっても外れがない印象です。ボジョレーは毎年「世紀のヴィンテージ」と言っていますが、2020年のボルドーはまさに世紀のヴィンテージです。
ー プリムールという非常に若いワインをテイスティングする際のポイントは?
非常に和やかな雰囲気で、テイスティングが始まると、さすがソムリエのお二人のコメントもなめらかです。
最初のテイスティングワインは、シャトー・フィジャックとテルトル・ロートブッフです。右岸の2銘柄を近藤佑哉ソムリエがテイスティング。近藤さんは昨年のソムリエコンクールで第3位に、井黒卓さんは同じ大会で見事優勝された日本を代表するトップソムリエです。プロのコメントを聞きながら我々ソムリエチームは画面外で大興奮しておりました。
近藤:酸味とタンニンの質がキーポイント。最近温暖化の影響で糖度が上がっている分酸度が下がりやすい傾向にあります。いかに質のいい酸を保てるかがポイントです。
フィジャックはブルーベリーや、リコリスのような甘さを感じる香りで、複雑性があるのが特徴で例年のフィジャックに比べると、酸がきれいに表現され、フィジャックらしいグリップのきいた味わいです。テルトル・ロートブッフはプラムのジャムのような凝縮感のある香りで、果実味の豊かさと重心の低さ、後味にカカオやチョコレートの印象を受けるので、メルロの熟度の高さを感じられます。フィジャックは若い段階から楽しめ、テルトル・ロートブッフは熟成を待ちたい対照的なワインです。長期熟成を経て酸が骨格を作ってくれると思います。
前川:続いて、ドメーヌ・ド・シュヴァリエとスミス・オー・ラフィット、ペサック・レオニャンの2銘柄を井黒ソムリエにテイスティングいただきましょう。
井黒:私は60シャトーを全部回らせていただく経験をしました。その時に感じたのは、若いワインの香りの違いを見つけるのはすごく難しいということです。私が重視するのは触感、テクスチャーです。若いうちはタンニンがぎすぎすした印象があるのですが、最近はタンニンマネジメントが向上していて、良いワイン、トップシャトーは若いうちからもおいしいです。
ドメーヌ・ド・シュヴァリエは赤系の瑞々しい果実のニュアンスがある。凝縮した果実とテクスチャーが融合して、クリーミーな感じを受けます。ドメーヌ・ド・シュヴァリエは完成度が高い、「買いの銘柄」かもしれないです。
山本:砂利土壌が多いので、抜けの良さがある。日本人にとってはメドックの重厚感よりこのミネラル感が好まれるのではないでしょうか。
井黒:確かに、軽やかさがありますよね。ベタっとしないというか。ドメーヌ・ド・シュヴァリエは抜けの良さ、生き生きとして重心が高いような印象がありましたが、スミス・オー・ラフィットの方がタンニンも丸くて甘みを感じるしなやかな印象です。親しみやすさを感じますし、早く飲み頃を迎えるのではないかと思います。
ドメーヌ・ド・シュヴァリエやスミス・オー・ラフィットがあるペサック・レオニャンは、建物の中に急に畑が出現するボルドー市内から最も近いワイン産地です。市内からはバスやトラムでもアクセス可能ですので、滞在時間が短い方、公共交通機関でワイナリーに行きたいという方にはおすすめです。私も以前にオー・ブリオンを訪問したときにあまりに市街地が近くて、この畑であのワインになるのか?と非常に驚きました。
ー 最初の飲み頃の指標としては5年。ワインを育てる・・・プロおススメのプリムールの楽しみ方とは?
山本:おすすめは、まず3本買って、とりあえず届いたら1本飲んでみます。そして、2本目は、最低5年間は置いてから飲んでみるのが良いでしょう。今日テイスティングしたワインは5年でもきっと早かったと思う。最後の1本は、なにがしかの記念に開けるというのがいいと思います。
ワインはタイムカプセルみたいなものです。そのヴィンテージのワインを飲んだ時にその年の出来事を思い出すでしょう。
近藤:経過を観察するというのは大切なのですね。
前川:2020年のプリムールが手元に届いたときに、おいしく飲むコツは?という質問がありますが。
近藤:デキャンタージュは一つの手です。空気に触れさせることで香りがより豊かになり、タンニンもまろやかに感じられます。ただ、同じくらい大事なのは温度帯だと思います。16~18度の温度帯、これはフランスで言う室温・常温ですが、この温度になるようにコントロールして、ゆっくりと楽しむのが良いです。いいワインは時間をかけて楽しみたいですね。
井黒:デキャンタージュの目的は香りを開かせることよりも、タンニンと酸素を重合させることなので、抜栓だけしておいて、数日間かけて飲むのも良いと思います。
山本:私の手元にもプリムールのサンプルが届くのですが、カノンやローザン・セグラは1か月近くかけてちびちび飲んでいます。
ー プロが注目するシャトー、お気に入りのAOCは?
ここで、メドックワインのテイスティングに移ります。シャトー・ベイシュヴェル、レオヴィル・ポワフェレをテイスティングしながら、視聴者からの好きなAOCについての質問にも答えていただきました。
山本:テイスティングをするとき、ワインをどういう人が作っているのかを気にしています。シャトー・ベイシュヴェルは2016年に最新の醸造設備を入れたシャトーです。ブラックチェリー、カシス、エキゾチックなスパイスの香り、ストラクチャーはしっかりしているけれど、フレッシュ感もあり今楽しめる仕上がりです。ここ数年品質が向上していてねらい目のシャトーです。レオヴィル・ポワフェレはメルロが多いので肉感的でなめらかなテクスチャーで親しみやすいです。
サン・ジュリアンとマルゴーには注目しています。実はマルゴーは最も格付けシャトーが多くて、最近は実力を取り戻しつつある。破竹の勢いなのはやはり、ローザン・セグラです。マルゴー、パルメに迫る勢いです。
井黒:マルゴーはアンフォラで熟成をするデュルフォール・ヴィヴァンとか、ポイヤックの中でも地味ですがペデスクローなどは注目しています。私はヴィンテージの傾向に注目して、ワインを選んでいます。
近藤:私はデュアール・ミロン。ラフィットと同じチームで醸造されているという点で、今日テイスティングして改めて良さを感じられました。
ー ボルドーブランにもう一度注目してほしい。ぜひ、大きめのグラスで楽しんで。
最後に白ワイン2種、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ・ブランとスミス・オー・ラフィット・ブランをテイスティング。通常白が最初と思われがちですが、現地では白を最後に出してくることも多いのです。
井黒:ドメーヌ・ド・シュヴァリエ・ブランは個人的に好きで、2020年は、樽との調和が見事で果実やヴェジタル、スパイスなど様々な香りが層になっています。酸が少ないかなと思ったのですがまろやかで、触感がやはりいいです。日本だと白のいいものというと「ブルゴーニュを買いがち」なのですが、「ボルドーブランを忘れているのでは?」と思いますね。ぜひ、バルーンの大きめのグラスで飲んでみてください。
近藤:スミス・オー・ラフィット・ブランはトロピカルフルーツとスモーキーなニュアンスを感じられます。今からでももちろん楽しめますし、何年も待って熟成による変化も楽しみです。
写真:左から前川さん、井黒さん、山本さん、近藤さん
プロならではのコメントがたくさん聞け、全く時間が足りないと思わせてくれる45分でした。
2020年プリムールは現在販売中です。数に限りがありますのでぜひお早めにご購入下さい。
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