キアンティは世界中で最もよく知られているイタリアワインといっていいでしょう。
フィレンツェを中心とする、トスカーナ州中央部、なだらかな起伏のある丘陵地帯のほぼ全域にわたる広大な地域では、土壌の多様性と各々の丘が織り成す気候から個性豊かなワインが生み出されます。その生産量は年間1億本以上とDOCクラス以上のカテゴリーの中でも生産量の多いワインの一つです。
生産地域は、フィレンツェから南にピストイア、アレッツォ、シエナと続き、フィレンツェの西に位置するピサと5つの県にまたがっています。
キアンティ・クラッシコは古くからキアンティが造られていた地域で、約25万ヘクタールの広さがあり、キアンティの約3割に当たる3000万本を生産し、現在ではキアンティとは別の規定によってワインが造られています。
キアンティ・クラッシコの生産者組合は独自の協会を設け、品質管理などを行なっています。これは黒の雄鶏のマークで知られる「ガッロ・ネロ協会」で、グレーヴェ、パンツァーノ、ラッダ、ガイオーレ、カステッリーナなど、フィレンツェの南からシエナにかけての地域の生産者によって構成され、1996年より独自の内容のDOCGワインとして認められています。また2002年には、規定もサンジョヴェーゼ種80~100%と変更されました。
キアンティはサンジョヴェーゼ種主体にカナイオーロ種などを使用しますが、この2品種はブドウの収穫がほぼ同時期であることから、一緒に収穫し、醸造されてきました。キアンティでは古くからこの方法でワイン造りが行なわれ、ブドウの苗はワインに使用する比率で植えられてきました。古くはアルケット・トスカーナ方式やアルベレッロ方式に植えられてきましたが、現在ではコルドーネ・スペロナート方式に植えられるようになっています。ヘクタール当たり3000本~7000本植えられ、1本あたりのブドウの収穫量は2キロ以下に抑えられています。
サンジョヴェーゼ種はトスカーナを代表するブドウで、石灰質泥土壌のみならず多くの土壌に適することから、広い地域で栽培されています。濃いルビー色で、若い時はスミレや果実の香り、熟成するとエステル系の香りを含みタンニンと酸のバランスが良く、後口にほろ苦さがあるため食事によく合う赤ワインです。
フレスコバルディ家、アンティノリ家、マッツェイ家を始めとする由緒あるフィレンツェのファミリーは、600年以上も前からワインを造ってきました。今日のキアンティの歴史は19世紀の初めまで遡りますが、この時期までキアンティは、ブルゴーニュ地方のワインのニセモノ用に使われたり、味わいが重すぎるポートワインの味わいを和らげたりするのに使われていました。フィレンツェを治めたピエトロ・レオポルドは、25年の歳月をかけて農地の地図を作らせ、特にワイン造りには力を入れました。
その頃ベッティーノ・リカゾリ男爵はキアンティを造る農園を相続し、この土地に住み、本格的にワイン造りを始めました。彼は苗に注目し、香りのよいサンジョヴェーゼ種をベースに甘味を増すカナイオーロ種、味わいを増すマルヴァジア種、トレッビアーノ種を加えて食事に合うキアンティのもととなる配合を考案しました。これが今日のキアンティの基礎を築いたといえます。その後彼は1848年に政界入りし、イタリアの首相となりましたが、そのワイン造りは多くの人々に受け継がれました。
近年、新しいカテゴリーとして、所有する畑のブドウのみを使い独自のワインに仕上げたグラン・セレツィオーネノカテゴリーを設け、100を超えるワインがノミネートされたものの、実際にはリゼルヴァクラスとそれほど変わりはなく、あまり差別化には至りませんでした。
ワインは生き生きとしたルビー色で熟成に従いオレンジ色を帯び、濃密なブドウやスミレの香りを含み、なめらかで調和の取れた辛口になります。若いキアンティは食事を通して飲めるワインですが、力強いものや熟成させたものは、赤身肉の料理や辛口熟成チーズなどにも向きます。骨付き肉にオイルとコショウをたっぷりかけたトスカーナ地方の名物料理「ビステッカ・フィオレンティーナ(フィレンツェ風Tボーンステーキ)」には最適なワインといえるでしょう。
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