メドックで2級の格付けを与えられ、スーパーセカンドの筆頭とも言われる、シャトー・コス・デストゥルネル。他のシャトーとは明らかに意匠の異なるインドのパゴダ(仏塔)の様な洋館も有名で、シャトーのシンボルにもなっています。
その歴史は初代オーナーのルイ・ガスパール・デストゥルネル氏は、1791年に「コス」と呼ばれたサン・テステフ一帯の土地を継承したことから始まります。「コス」とはフランス語で砂利の丘を意味し、実際、シャトーはシャトー・ラフィットを見下ろす小高い丘の上に位置しています。
彼は周りの土地を次々と買収していき、ブドウ畑は11haから45haまで拡張され、1811年、彼はこの土地の元々の名前である「コス」と、自身の「デストゥルネル」という名前を掛け合わせて、シャトー・コス・デストゥルネルが誕生しました。
デストゥルネル氏はブドウ園、そして醸造施設に対して多大な投資を行い、ワインの品質は一気に向上し、その評価は、歴史は浅いながら既に隣接するシャトー・ラフィット・ロートシルトと肩を並べるようになっていたと言われています。
当時、ボルドーのワインは主にネゴシアンを通してイギリスに輸出され、そこで消費されていましたが、デストゥルネル氏は、既にイギリスの植民地になっていたインドに注目。彼は当時インドに販売網を持たなかったネゴシアンに代わって、自らインド市場を開拓していく事に決めます。
周囲のシャトー・オーナーやネゴシアンからの強い反対もありましたが、インドに駐在するイギリス人将校がシャトー・コス・デストゥルネルを高く評価。インドでの売上は順調に伸びていき、1850年頃には、シャトー・コス・デストゥルネルの売上の殆どがインド市場におけるものとなっていました。
この異彩を放つパゴダを模したシャトーは、自身のインドへの愛着と敬意の表れであり、「サン・テステフのマハラジャ」と呼ばれる様になりました。
しかし、晩年にはシャトーへ投じた多大な借金の返済に苦しむようになり、1852年に、彼はロンドンの銀行家にシャトーを売却する事にし、翌年、デストゥルネル氏は齢に満ち亡くなりました。
彼の死からわずか2年後の1855年、ナポレオン三世は「イギリスへ輸出可能なワイン」という条件のもと、パリ万博の目玉としてボルドーの商工会議所にシャトーの格付けを依頼します。本来独自ルートで販売を行っていた彼らのワインはこの基準を満たすものではありませんでしたが、ロンドンの銀行家に経営権が移った事から、ネゴシアンへの販売も並行して行うようになり、「イギリスへ輸出可能なワイン」という条件を図らずも満たし、晴れて格付け2級を得ることができました。
シャトー・コス・デストゥルネルは、更に評価を上げていきましたが、その一方でシャトーの経営面を見るならば、シャトー・コス・デストゥルネルは多くの資本家に振り回される事になります。シャトーは売却と買収を繰り返し、その経営権は下記の様に目まぐるしく推移していきます。しかし、シャトーの経営権が何度も委譲されても、その品質を落とすことなく、高い評価を得続けてきたという点がシャトー・コス・デストゥルネルの特筆すべき点です。
その根幹にあるのが、シャトーの創業者であるデストゥルネル氏への敬意です。実際、シャトー内の最も目立つ位置に今でも彼の肖像画が掲げられ、その哲学は現在も継承されています。
【シャトー・コス・デストゥルネルの特徴】
現在シャトー・コス・デストゥルネルでは、カベルネ・ソーヴィニヨンが56%、メルローが40%、カベルネ・フランが4%となっており、ごく僅かな量のプティ・ヴェルドも植樹されています。他のサン・テステフのワインと比べて、メルローの割合が大きいのが一つの特徴となっており、それが独特の味わいを形成する要素となっています。
そして彼らのワイン造りの哲学を象徴するワインとして、2018年に発表されたCos100を上げることができます。
シャトー・コス・デストゥルネルのブドウの樹齢は平均で約40年ですが、Cos100はその中でも樹齢が100年を超えるメルローだけを使用して造られたワインです。このワインは2015年のヴィンテージのみごく少量だけ作られ、ニューヨークと香港のサザビーズのオークションにおいてお披露目され、その収益は、インドを含むアジアにおいて象の保護活動をしている慈善団体に全て寄付されました。
創業者であるデストゥルネル氏は、当時は異端扱いされましたが、それでも彼は自身のワイン造りや販売に対する哲学を貫き通し、その哲学は現在まで継承されています。
私たちはコス・デストゥルネルを飲む時、創業者であるデストゥルネル氏の情熱、そしてそれを継承した歴代のオーナーたちの彼に対する敬意を感じ取る事ができるに違いありません。
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