ボルドーでは最古のシャトーのひとつシャトー・フィジャックは、シュヴァル・ブランとともに、サン・テミリオンを代表するシャトーの一つです。

 帝政ローマ時代の西暦2世紀頃、すでにフィジャックと呼ばれる古城がサン・テミリオンに存在していたと言われており、15世紀になると名門カーズ家がこの古城を購入します。

1586年、当主のレイモンド・カーズ氏は古くなった城を取り壊し、新しい城の建設に着手すると同時に、ブドウ園や醸造施設も整備。この頃から、シャトー・フィジャックのワイン造りが本格的にスタートする事になりました。

1654年になると、カーズ家の当主と、当時ボルドーで最も成功した豪商として知られていたカルル家の娘が結婚し、シャトーはカルル家の所有となりますが、潤沢な資金を用いてブドウ園を更に拡張し、醸造施設も増強します。更にパリや北ヨーロッパへの販路開拓にも成功します。

このようにしてフィジャックは、中世ヨーロッパにおいて、ボルドーを代表するシャトーとして名を馳せる様になりました。

ところが、フランス革命によって多くの領地が没収され、当時フィジャックは約200haの土地を有しており、右岸で最大の面積を誇っていましたが、財政的にひっ迫したことから、1832年以降、シャトーの土地が切り売りされていく事になります。サン・テミリオンに、「フィジャック」と名の付くワインが多数ありますが、それはこの頃に元々あったシャトー・フィジャックの土地が分割された事の名残です。ちなみに、この時売却された区画は現在のシュヴァル・ブランの一部となっています。

このようにしてシャトー・フィジャックの面積はどんどんと縮小し、最終的には37haまで小さくなってしまいました。

その後1892年、シェブレモント家がシャトーを買収。これ以上土地を切り売りするのを止め、より高品質なワインを造り出す方針を打ち出します。品質の安定化のみならず、ラベルデザインを一新。このシンプルかつ特徴的なラベルは現在に至るまでシャトー・フィジャックの代名詞として認知されています。

1947年、農学博士としての学位を持っていたティエリー・マノンクール氏がシャトーの管理を任される事になります。彼はこれまでの経験だけに頼らず、より科学的なアプローチによりワインの品質向上を図ります。

畑の灌漑設備を整え、温度制御が施されたステンレスタンクによる醸造をスタートします。この方法は今でこそ一般的になっていますが、当時としては非常に画期的なもので、反対するワイン関係者も多かったようです。

2012年、上級位への格上げ申請をINAOに対して行いましたが、「品質面では問題ないものの、価格面やブランド面でクラッセAの基準を満たしていない」との理由で見送られました。

コストパフォーマンスの高さが魅力でもあった訳ですが、この件を受けてシャトー・フィジャックは、経営方針を大幅に転換し、より高級志向を推し進める事にします。

外部のワインコンサルタントとして、ミシェル・ローランとジャン・バルミ・ニコラを起用、2015年からはボトルごとにIDを付与し、偽造防止を図ると共に、トレーサビリティを確認できるシステムを構築します。更にISO14001を取得し、環境に配慮したワイン造りを行っている事を市場に向けてPRします。加えて2016年からは「X-wine contest」というブラインドテイスティングのコンテストを主催しています。このコンテストはオックスフォード大学やケンブリッジ大学と共同で催行されており、アカデミアとの連携を強める事によっても、彼らのブランディングは高まっています。

また近年は農地の50%を馬で耕しており、有機農法にも挑戦しています。

この様に現在シャトー・フィジャックは様々な取り組みを通して品質向上と知名度向上に取り組んでおり、次回の格付けの見直しの際には、上級位への格上げが最も近いとされるシャトーとなっています。

もし、格付けの見直しが行われたら、さらに価格が高騰するかもしれませんね。

 シャトー・フィジャックの畑は現在41haほどあり、その中にはカベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、そしてメルローがおおよそ1/3ずつ植えられています。

シャトー・フィジャックは、サン・テミリオンの中ではカベルネ・ソーヴィニョンの植栽比率が非常に高く、それが味わいの特徴ともなっています。

一方でプリムールのテイスティングの際には、タンニンの強いカベルネ・ソーヴィニョンの陰にメルローが隠れてしまい、味わいを判断し辛くなる、テイスター泣かせのワインであるとも言われています。

これによりシャトー・フィジャックは、プリムール時には高い評価ではなかったものの、後の時代になってから非常に完成した味わいになるという事が度々起きるワインであり、これこそがシャトー・フィジャックの面白さでもあります。

シャトー・フィジャックは20年~40年程度の熟成に耐えられるとされており、長期熟成に適したワインです。

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