ジュラ・サヴォワ地方は、スイスとの国境沿いに位置し、フランスのワイン産地の中でも、特に内陸に位置する「山の地方」と言える。
サヴォワはよりスイスに近く、このエリアでは「ルーセット」という品種から生まれる白ワインが秀逸だが、まだ日本ではあまり知られていないことから、あえて私はレストランでペアリングのワインとしてセレクトさせていただく機会も多い。
ジュラ地方で有名なチーズとして「コンテ」や「モンドール」があるが、ワインがお好きな方ならおそらく一度は食べたことはあるのではないだろうか。レストランで仕事をしていても、この二つのチーズのファンは沢山いらっしゃるように思う。そして、コンテやモンドールととても相性が良いワインとして有名なのが、ジュラ地方を代表する「ヴァン ・ジョーヌ」である。
ヴァン ・ジョーヌは日本語で言うと、「黄色いワイン」ということになるが、つまり、白ワインが酸化熟成することによって、色調が鮮やかな黄色に変化したものだ。 このワインを造るブドウ品種は「サヴァニャン」という、まさにヴァン ・ジョーヌを造るのに相応しいブドウを使い、法律上、樽熟成60カ月以上という、非常に長い熟成を義務付けている。
そして、特徴的なのが樽熟成の期間中、「オリ引き」をせずにオリと共に長期間熟成させることで、オリからの旨み成分をしっかりと引き出す。さらには熟成中、樽内のワインが目減りしても、「補酒」をすることを禁止することであえて酸化熟成を促す。
ただしその熟成の間、空間のある樽内のワインがただ酸化熟成するだけであれば、間違いなくワインは真っ茶色になり、酸化劣化してしまうだろうがここで不思議な現象が起きる。
ワインが自己防衛するかのように、液面に「フルール・デュ・ヴァン(直訳すると“ワインの花”)」と呼ばれる、自然に出来上がった酵母の膜によって、ワインが直接的な酸化から守られることで、非常にゆっくりと綺麗に熟成を促す。これらの過程によって、ナッツやキノコのような独特のフレーヴァーが生まれ、ワインは複雑性を増していき、この地方特有のキャラクターが生み出される。
「ヴァン ・ジョーヌ」を名乗るためには特別に長い熟成期間が必要なため、もちろん全てのワインがその熟成に耐える、もしくはそこを目指した造りをするワインではない。
以前、シェフから提案されたコース料理に合わせるワインペアリングコースを考えていた時、その中のメニューにコンテと新玉ねぎを使った一皿があり何を合わせるか悩んだ。シンプルなだけに、ここで重要なのは、やはりこのチーズを主役に考えるということだ。
コース前半に位置する料理だったため、いきなりヴァン・ジョーヌを出すには、あまりにもインパクトが強すぎると考えた。かと言って、他の地方、まして他の生産国のワインを合わせるのは、この「コンテ」という地方色のはっきりとしたチーズには、かなりの違和感を感じるし何しろ説得力にかける。
そして考えを巡らせる中で最後に行き着いたのが、「ヴァン・ジョーヌのニュアンスを出しながらも、熟成期間をより短くして、その個性をやや抑えた白ワイン」だった。これならば、白ワインとして、このオードヴルとのパワーバランスもぴったりで、なおかつジュラのヴァン・ジョーヌ特有のキャラクターも感じることで、コンテチーズともしっかりと相乗し、ゲストへの説明としても、非常に説得力のあるアプローチとなる。そして実際に合わせてみると、想像以上の結果となったと自負している。
それ以来、このスタイルのワインは、私のペアリング提案の一つの武器となっているが、その時に色々と相談させていただいたインポーターの方にもとても感謝している。
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