トスカーナ州は、イタリアの中西部、西はティレニア海に面し、東はアペニン山脈と接し、海と内陸、山、それにエルバ島、モンテクリスト島などの島も含む幅広い特性を持つ州です。ゆったりとした丘陵では、小麦の他、古くからブドウの栽培が行なわれ、フィレンツェからシエナを中心とする地域では、伝統ワインキャンティが造られてきました。また、ピエモンテと並びDOCGワインの多い州で、サンジョヴェーゼ種主体の高品質なワインが多く造られています。
この州は自然の美しさだけでなく、歴史と伝統、さらに近代的なワイン造りを巧みに重ね合わせ、世界に知られる素晴らしいワインを造る土地として認知されています。紀元前8世紀には、既にエトルリア人がワインを造っていたといわれ、現代の栽培法にも生かされています。中世にはワインは大量に消費され、1300年代に、フィレンツェで年間一人当たり200リットル以上消費されていたとあります。1282年にはフィレンツェでワインギルドが設立され、アンティノリ、リカゾリ、フレスコバルディ、マッツェイなど、今日に続くファミリーもあります。
ワイン生産地は、大きく3つの地域に分けられ、中央部のキャンティを生産する地域、次に南部のモンタルチーノとモンテプルチャーノを中心とする地域、そして新興の海岸沿いの地域があります。
キャンティを造る地域の中心地で、古くから造っていた地域はクラッシコと呼ばれ、全体の3割程度のワインを生産しています。黒の雄鶏マークで知られるクラッシコ協会は、独自の規定で品質管理を行い、600もの造り手が入っている組織です。
標高200~600メートルの石灰質泥土壌、あるいは砂利土壌で造られるこのワインは、スミレの香りを含む調和の取れたワインで、この地方の料理に良く合います。フィレンツェ、シエナ、ビストイア、ピサ、アレッツォの5つの県で造られています。サンジョヴェーゼ種の香り、味わいにカナイオーロ種の色合い、甘味でバランスが取られていましたが、今日ではカベルネ、メルローなどの国際的品種も多く加えられるようになってきています。
世界で知られるトスカーナのワインに、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノがあります。この長熟ワインの歴史は比較的浅く、百数十年前、サンジョヴェーゼ種を改良したサンジョヴェーゼ・グロッソ種(ブルネッロ種)から生まれました。1869年、モンテプルチャーノ農業博覧会で見事金賞を獲得し、一躍注目のワインとなりました。現在では、当時の3倍の生産量になっています。
このワインは通常のサンジョヴェーゼ種よりも力強く、濃いルビー色で、濃密で個性的な香りがあり、しっかりとしたタンニンを含みながらエレガントで調和の取れたワインです。赤身肉の料理やジビエ料理の他、熟成チーズにも向きます。
ブルネッロと同種のブドウで、地元でプルニョロ・ジェンティーレと呼ばれるブドウから造られるヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノは、シエナの南、モンテプルチャーノの丘陵で古くから造られてきたワインであり、地元の貴族によって育てられました。このワインは古くから存在していましたが、18世紀末からノビレ(高貴な)と呼ばれるようになりました。濃いめのガーネット色で、繊細で上品なスミレの香りを含み、しっかりとした味わいの辛口赤ワインです。この地方の伝統料理で、豚背肉の料理「アリスタ」や赤身肉のグリルなどに合います。
海沿いの地域で有名になった「サッシカイア」は、カベルネ種を使用し、ボルゲリのDOCに含まれています。その南、グロッセートに近いスカンサーノを中心とする地区で造られるモレッリーノ・ディ・スカンサーノは、濃い美しいルビー色で、モレッロと呼ばれる黒色の馬に似た色であることからこう呼ばれ、サンジョヴェーゼ種主体で造られます。
白ワインでは若い頃は麦藁色で、熟成にしたがい黄金色を帯びるアロマのしっかりした辛口、ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノがあります。上品な味わいで後口に苦味の残るワインで、甲殻類の料理の他、豚肉、鶏肉など白身肉のソテーなどにも合います。
近年「スーパータスカン」と呼ばれ、特にアメリカで人気の新しいスタイルのワインがありますが、これは、1968年に提案された「サッシカイア」に始まります。このワインがトスカーナのワイン造りに与えた影響は非常に大きいと言えるでしょう。
おすすめ記事