メドックの5大シャトーに匹敵するワインとして、右岸のサン・テミリオンの格付けプルミエ・グラン・クリュ・クラッセA(第一特別級A)を挙げる事ができます。この格付けは定期的に更新される為、メドックの格付け以上に実勢に即しているものと言えるかもしれません。その中にあって、1955年に格付けの歴史が始まって以来、トップに君臨し続けているシャトーがシャトー・シュヴァル・ブランです。
ポムロールに隣接するシュヴァル・ブランの敷地には、サン・テミリオンとポムロールの優れたテロワールがパッチワークのように混在することが最大の特徴で、それがワインに複雑さをもたらします。砂礫質の土壌には香しいカベルネ・フランが、粘土質の土壌には豊潤なメルローが植えられ、近年は砂礫質の土壌にカベルネ・ソーヴィニヨンも植えられるなど、シャトーの絶え間ない挑戦が続いています。
シュヴァル・ブランは、1832年、リブルヌの名士であったデュカス家が、シャトー・フィジャック(Chateau Figeac)からブドウ園を購入。1852年に、それまではVin de Figeacという名前で販売されていたワインを、この年からシャトー・シュヴァル・ブランと改名する事から始まります。
この名前の由来ですが、1500年代後半から1600年代前半にかけて、当時の王アンリ4世がこの地を訪れた際に、彼が白い馬に乗ってやってきた事から、シュヴァル・ブラン(白い馬)という名称を採用したと言われています。
1860年代に入ると、シャトーは大胆なブドウの木の植え替えを実施します。今でも続くカベルネ・フランとメルロ主体の比率はこの時の英断で培われたものです。この植え替えが功を奏したのか、世界の博覧会で賞を総なめにし、シュヴァル・ブランの名声は瞬く間に世界中に広がっていきました。当時のオークションハウスの文書には、ラトゥール、マルゴー、ラフィット、オー・ブリオンと並び、当時最も高値で取引されていたシャトーと記録されています。
1955年サン・テミリオンの格付けが導入され、シュヴァル・ブランは晴れてプルミエ・グラン・クリュ・クラッセA(第一特別級A)を獲得する事になりました。1998年に世界的財閥のルイ・ヴィトン・モエ・エ・ヘネシー(LVMH)社の社長ベルナール・アルノーと、ベルギー人の投資家アルベール・フレールがシャトーを継承し、さらなる進化を遂げています。
ちなみに、この時の金額は公には明らかにされていませんが、1億3,500万ユーロ(約200億円弱)。1ヘクタールあたりの金額は1,500万ユーロ近くで、ボルドーの歴史上最も高額な取引となったと言われています。
さて、シュヴァル・ブランを買うべき理由の一つとして、ワインが非常に長命、長期熟成に適しているということが挙げられます。
2010年のクリスティーズのオークションにおいて、1947年のシュヴァル・ブランの6リットルのボトルがオークションにかけられました。落札金額の最高額を更新したことも驚きですが、成分分析の結果、14.4%ものアルコール度数を維持していた事が明らかになりました。60年以上経っていたにもかかわらず、非常に長命なワインであることが立証されたエピソードだと言えます。
また、品質を追い求める一貫したスタイルも評価に値します。例えば、1991年のボルドーは歴史的な不作の年。彼らはセカンドのル・プティ・シュヴァル(Le Petit Cheval)だけを作るという決断を下したのです。一方で2015年はWAでも100点を獲得した史上稀にみる優良な年で、この年は畑で収穫された全てのブドウがファーストのシュヴァル・ブランに回される事になりました。
万が一、レストランやワインショップで1991年のシュヴァル・ブランをお勧めされたら、間違いなく偽物ですのでだまされないようにご注意ください。
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