2022年3月2日、ブルゴーニュのジヴリ地区の生産者「ドメーヌ・デュ・セリエ・オー・モワンヌ」のオーナー フィリップ・パスカル氏を迎えて生産者セミナーが開催されました。

シトー修道会とワイン造り

「セリエ・オー・モワンヌ」という名前にある「モワンヌ」とはフランス語で修道士のことを指します。ブルゴーニュのワイン造りに大きな影響を与えたシトー修道会。「必要とするものは、自ら生産すべし」という教えがあり、ワイン造りもその一つです。クロ・ド・ヴージョ、ムルソー、モンラッシェなどの開墾を行ったのもシトー修道会と言われており、当時開梱された畑は今でも高品質のワインを生み出すテロワールと高く評価されています。

フィリップ・パスカル氏は、中でもジヴリを選んだ理由としてこう語ります。

「妻のカトリーヌとたくさんの畑を見て回ったのですが、最終的にコート・シャロネーズに行き着きました。アペラシオンとしてよく知られたところでもテロワールがあまり良くない畑と、あまり知られてはいないがテロワールがとても良い畑のどちらを買うかという選択を迫られたときに、我々は後者を選択したのです。」

フィリップ氏は、荒廃していたシトー修道会のクロ・デュ・セリエ・オー・モワンヌを復活させるべく畑を購入し、2006年にファーストヴィンテージをリリースしました。

(写真右)オーナー フィリップ・パスカル氏、(左)妻カトリーヌさん

品質向上のためにできること

「まず、クローンのピノ・ノワールをセレクション・マッサール(※)で選別したピノ・ファンに植え替えを始めました。」

※畑のブドウ樹から優れた樹を何種類か選び、台木に接ぎ木して育てていく方法。自分の畑に合った優秀な樹が代々継続して畑で育っていくというメリットがある。ポイントとしては1種類ではなく、いくつかの種類の多面的に優れた苗木を残していく事。

彼らは2015年には新しい醸造施設を建設し、若く才能あるギョーム・マルコを醸造責任者として迎え、2016年にビオロジックへ転換しました。「2016年は雨が多く栽培が難しかった年ですが、ドメーヌでは仕上がりに満足できた」と語るフィリップ氏。本格的にビオディナミを導入し、単に栽培方法を変えるだけではなく認証取得に動き始めました。

2016 ビオロジック転換

2017 ビオディナミ転換

2020 エコセール認証(ビオロジック)

2023 ビオディヴァン(※)認証予定(ビオディナミ)

※ビオディヴァンは、ポンテ・カネ、ルフレーヴ、DRC、マルセル・ダイスなど計148の栽培農家が加盟するブドウ栽培限定のビオディナミ認証団体

ちなみに、認証の取得には細かな規定があり、長い時間と手間、そして多額の費用もかかるため小規模生産者が多いブルゴーニュでは、有機やビオディナミで栽培をしていても認証を取得しない生産者も多いのです。フィリップ氏は「私達の哲学は、地球環境をリスペクトすること・畑を守ること、そしてワインを飲む方に喜んでもらうことを掲げています。ビオ、ビオディナミ製法をとることにより、病害等もすぐに気づき対処する必要がありますが、それは私達を良い生産者にしてくれることでもあるのです。」と語ってくれました。

(写真)クロ・パスカルの畑

ブドウの栽培について

ところで、1年間のブドウのサイクルをご存じでしょうか?冬、1月・2月はブドウの生育サイクル的には「休眠期」。生産者の主な仕事は「剪定」となります。冬に生産者セミナーが多いなと感じる方もいるのでは?実は、こうした作業の閑散期に当たるので、ワイナリー的にはプロモーションの絶好の機会なのです。春を迎え3月から4月にかけて、気温が10℃を超えてくるとブドウの新芽が出てくる「萌芽」の時期。ここからは、生産者によって収量や品質の管理をする様々な作業が行われますが、セリエ・オー・モワンヌでは、春に摘芯し、将来の花や実の数を制限することで、真夏にブドウにストレスを与える可能性のあるグリーンハーヴェスト(結実したブドウの実を切り落とすこと)を避けています。夏の生育期を超えると、9月から10月にかけて、収穫の時期を迎えます。ブドウの糖度やフェノール量、酸度、生産者独自の判断でタイミングを決定するのです。また、ブドウの仕立て方には棚仕立て、垣根仕立てなど様々ありますが、セリエ・オー・モワンヌでは、クロ・デュ・セリエ・オー・モワンヌの上部のある僅か0.3ヘクタールの石垣(クロ)に囲まれた小さな畑クロ・パスカルでロニエ(先端を切る作業)を行わない棒仕立てを採用しています。その理由として「夏季にブドウ樹をロニエすると、樹液を失い、水を失い、樹・実ともに非常にストレスがかかりますので私達はロニエを必要としないようにしています。 」

なぜ、ピノ・ファンなのか?

ドメーヌでは少しずつピノ・ファンへの植え替えを行っています。

ブルゴーニュの品種はピノ・ノワール1種と思っている方も多いと思いますが、実は多くのクローンが生産されていてその数は数百種類を超えると言われます。ピノ・ノワールのクローンはその粒の大きさから、大粒の「Gros(グロ)」、中程度の「Moyen(モワイヤン)」、小粒の「Fin(ファン)」の3つに分けられ、ピノ・ファンはクローン群のなかでも収量が少なく粒も小さくなります。

「ピノ・ファンはタンニンが繊細で、小さく高品質の実をつけるピノ・ノワールです。ブドウの房が小さく、粒も小さい品種で、全房発酵を行う我々には適した品種です。ブドウの植え替えによって一気に品質を向上できるポテンシャルを秘めているのです。ドメーヌに1970 年代に植えられたクローンのピノ・ノワールは多産でタンニンが粗いものでした。古木で凝縮しているが、繊細さに欠けるという欠点があり、ピノ・ファンに植え替えを行うことにしました。畑の特徴やそこに植えられたブドウ樹の個性の違いによって畑をパーセルに細分化して、パーセルの特徴に合わせて栽培と醸造を行っています。最終的に、味わいによって、クロ・デュ・セリエ・オー・モワンヌに混ぜるかどうか決定しています。」

 ブドウを丸ごと味わうようなワイン造り

ここからは、醸造責任者のギョーム・マルコ氏が解説に加わります。彼はディジョンで醸造学を勉強し、DRCやアルノー・ラショーで研修後、フレデリック・マニャンで醸造責任者となったのち、2015 年にセリエ・オー・モワンヌの醸造責任者に迎えられました。

セリエ・オー・モワンヌでは、それまでの醸造設備が彼らのワイン造りには適していなかったため、2015年にグラヴィティ・システムを採用した醸造施設を建設しました。

(写真)醸造責任者ギョーム・マルコ氏

「収穫されたブドウをワイナリーの最上階に集約し、ワインを重力によって移動させることにより、ポンプの使用を回避しました。ポンプを使用しないので、果汁やワインにストレスがかからず、移動による酸化を最小限に抑えることができるのが特徴です。」

ボルドーなど資本力の充実したシャトーでは大規模なグラヴィティ・システムを利用した近代的セラーを採用することも多いですが、規模の小さなブルゴーニュのドメーヌではひと夏を超すのもやっとというドメーヌが多く、このような大規模な醸造設備を整えること自体非常に珍しいです。ちなみに、その年に収穫するワインの仕込みを行うスペースを確保するため、手持ちのワインを夏前に出荷してしまいたい、と思うブルゴーニュの生産者は非常に多いです。

 「円錐状の「トロンコニック」という醸造樽を使用して、全房発酵(※)させます。2017年は少し暑い年だったので、新鮮さを残すために選果を厳しく行い、アルコール発酵中も何度もテイスティングを行って状態を注視し、醸しは中程度に3週間で終了しました。ワインは長期間の樽熟成をさせるようにしていて、20%新樽、ワインは樽の中で2回冬を越すようにしています。」

※全房発酵というというのは、ブドウの房も茎も一緒に発酵させる醸造方法です。メリットとしてはワインに複雑さ加わると言われていますが、最近は除梗という茎を取り除く作業を行うワイナリーが多いです。セリエ・オー・モワンヌでは、ブドウが完璧に熟した時のみに全房発酵をさせ、それ以外は除梗してるそうです。

■2017 メルキュレイ キュヴェ・レ・マルゴトン

「マルゴトンは北東向きの畑で、最後に収穫する畑です。2017年は我々にとっては目立った病害もなく、天候も安定した健全なワインが造れた年。夏は暑くブドウが良く熟し、9月の初めに収穫を終えました。とてもいい年で、仕上がりに満足しています。」

アカシアのハチミツのような香り、フレッシュで緊張感のある引き締まった味わいです。フィリップさんが言うには、食事に合わせていただきたいワインで、特にウニとあわせるととても良いそうです。

■2017 ジヴリ クロ・デュ・セリエ・オー・モワンヌ

フランスにはもうストックがないという貴重なワインをテイスティング。この畑はシトー修道会が 1130 年に開梱した石垣に囲まれた歴史ある畑です。南向き斜面にある、風通しの良い 4.7 ヘクタールの粘土石灰質土壌で、畑とワイナリーで 2 回厳しく選別しています。新樽は30%で16~18か月熟成後、無清澄・無濾過で瓶詰しています。

「2017年の出来はとても満足していて、チェリーやブラックベリーなどの黒系果実、非常に繊細でスパイスや花の香りの感じられる複雑な味わいです。」と、余韻も長く、ギョーム氏もいまちょうど飲み頃だと太鼓判を押すワイン。フィリップ氏は神戸牛の鉄板焼きと一緒に飲みたいと語ってくれました。

テイスティングをしてみて、滋味あふれる優しい味わいのワインという印象を受けました。かたく引き締まったというよりは穏やかで、樽で過度にボリューム感を持たせることもなく、素直。個人的な印象ですが、2017年は今飲んで非常においしいと感じます。ギョーム氏によると「2017年ヴィンテージは2022年以降飲み頃といえるでしょう。赤は10年、白は5年-7年の熟成が可能」ということですので、この機会に他のワインもぜひお試しください。

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ブルゴーニュ

フランスの北東部に南北に細長く位置するブルゴーニュは、超高級ワインを産出する銘醸地。
シャブリ地区、コート・ドール地区、ボージョレ地区からなっており、赤ワインではロマネ・コンティ、白ワインではモンラッシェが有名です。

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