6月13日、ソムリエ井黒卓さん、フリーアナウンサーで弁護士の菊間千乃さんをお迎えしてトークセッションを開催しました。
お二人にはプリムールのサンプルを試飲いただきながら、ヴィンテージの特徴やワインの味わい、お薦めの銘柄などをお話しいただきました。
ゲストプロフィール
井黒卓 氏
銀座「ロオジエ」ソムリエ
2020年「一般社団法人 日本ソムリエ協会主催 第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」優勝
2021年「A.S.I.(国際ソムリエ協会)主催 アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」日本代表
菊間千乃 氏
フリーアナウンサー・弁護士
日本ソムリエ協会ワインエキスパート、WSET Level3、ドイツワインケナー
プリムールは20年以上にわたり、毎年購入しているボルドー愛好家。
テイスティングレポート
ここからは、井黒さんと菊間さんのセッションの一部をご紹介いたします。
――プリムールを試飲した感想は?
菊間
プリムールを初めて試飲したのですが、今飲んでもおいしいと感じるのでびっくりしました。
最近は若いワインでもおいしいとよく言われますね。
井黒
温暖化の影響でブドウが熟すというのも、一つありますが、それ以上に栽培技術の向上があげられると思います。今は畑でのタンニンマネジメントが向上していて、トップシャトーこそタンニンと色素が結びついて、ワインになった時になめらかです。
――若いヴィンテージを評価するポイントは?
井黒
まだまだ発展途上のワインは、香りや色ではほとんど違いが判りません。そういったワインは、ぜひタンニンに注目してほしいです。渋みがどれだけ溶け込んでいるか。ワインの口当たり、テクスチャーを見てください。
菊間
温暖化の影響で醸造面での違いはあるかという質問をした際に、シャトー・ベイシュヴェルでは「澱引きをしない」と言っていましたが、それはどういうことなのですか?
井黒
澱というのはタンニンとアントシアニンが結合して、沈殿したものなのです。これを重合化といいます。
昔は3か月に1回くらい「澱引き」という作業をしていたのですが、最近では、タンニンの重合化の仕組みが科学的に解明されてきたので、まずブドウの段階で重合化されるようになりました。澱引きをする必要がなくなってきたのです。
逆に、澱は酸化をから守ってくれる役目もあるので、澱引きをすることが酸化を早めてしまうということで、最近は澱引きしないシャトーが増えています。
菊間
それが、先ほどのテクスチャーにつながってくるわけですね。
テイスティング・コメント
シャトー・フィジャック
井黒
涼しい印象がしますね。
菊間
これはこれでバランスが良くて完成されているような気がする。私は好きです。
井黒
僕は右岸ぽくないなと感じました。
フィジャックは、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロを約3分の一ずつブレンドする右岸では珍しいシャトーです。
菊間さんは左岸好きですよね。だから、好きなんじゃないですか?
菊間
そうかもしれないですね。
私は昨年フィジャックを買ったのですが、今年の格付けでプルミエ・グランクリュ・クラッセAに上がるんじゃないかと思っていて、そうすると確実に値段が上がるなと思ったのでプリムールで購入しておこうと。
井黒
いいポイントですね。
ラ・コンセイヤント
井黒
ポムロルはボルドー地区全体としてはブドウが一番早く熟すと言われていて、それがパワフルと言われる所以でもあるのですが、使っている品種・メルロはもともと糖度が上がりやすいため、アルコール度数も高くなりやすいです。
菊間
おいしいのですが、フィジャックに比べると飲んだ時にアルコールを強く感じる気がします。
井黒
アルコールの高さとマウスフィール、テクスチャーの違いを感じます。
若々しさはあるのですが非常になめらか。口中でのボリュームを感じます。
菊間
そう、ボリューム感!
井黒
私たちはこういったワインをglamorous(グラマラス)と表現します。
シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン
菊間
メドックマラソンに参加したときに訪問して飲んだのを思い出しました。
井黒
メドックで一番美しいシャトーと言われていますよね。
ポイヤックはシャトーが比較的川に近くて、温かく、砂利の土壌が多いので、カベルネ・ソーヴィニヨンに向いています。ひと言でいうと堅牢という言葉がぴったりです。
菊間
酸味が強い気がするんですが。
井黒
カベルネ・ソーヴィニヨンはもともと酸が高いのですが、これはヴィンテージの特徴です。
日本人は酸味を好む方が多いので、そんな方には2021年はピッタリだと思います。
熟成のポテンシャルも高いです。
菊間
どのくらい寝かせたらいいものなのですか?
井黒
飲み頃は好みなので、一概には言えないです。「年上が好きか、年下が好きか」みたいな感じです。
菊間
プリムールは20年くらい毎年買っているのですが、5年は絶対飲まない。
ワインって飲んだらおしまいで、良い年と言われるともったいなくて開けられない!
井黒
大切に育てているワインだからこそ開けられないという気持ち、わかります。
5年以上たったころに真価を発揮してくると思うのですが、ピション・バロンは寝かせていいワインの代表だと思います。
シャトー・ラスコンブ
井黒
ラスコンブはマルゴー村でも一番大きいシャトーで、メルロ比率が高いのが特徴です。
菊間
メルロ比率が高いとボリューム感が出るような気がしますね。
井黒
こちらの方が親しみやすい感じがしますよね。
菊間
今飲んでおいしいのはラスコンブですね。
井黒
肉付きがいい印象がありますね。
ドメーヌ・ド・シュヴァリエ
菊間
この段階でなんというか立体的。香りも層のように立ち上がってきます。
井黒
ペサック・レオニャンで一番標高が高い分、酸が保持されるのが特徴です。
標高が100m高くなると、気温が0.6℃下がると言われていますが、ドメーヌ・ド・シュヴァリエは標高が高い分、昼夜の寒暖差も大きくなりブドウが良く熟します。酸も凝縮感もあって寝かせられるワインです。
ちなみに、ドメーヌ・ド・シュヴァリエは白も素晴らしいんです。
菊間
知らなかったです!
井黒
こういったクラシックヴィンテージは白がいいんですよ。
参考までにいうと11年、13年、そしてこの2021年。僕もとても大好きなので絶対買ったほうがいいです。
レオヴィル・バルトン / ランゴア・バルトン
レオヴィル・バルトン(左)
井黒
ポイヤックとマルゴーの中間的な味わいと言われることも多いのですが、レオヴィル・バルトンは川寄りなので、例えばデュクリュ・ボーカイユ、シャトー・ラスカーズ、このレオヴィル・バルトンは力強い味わい。
同じサン・ジュリアンでもラグランジュは内陸なので、逆に暑い年なんかはとてもいいですよ。
菊間
落ち着いていますね!
井黒
いいですね、その表現。品がある、こういったワインをModestといいます。
菊間
謙虚って日本人には誉め言葉ですよね。
ランゴア・バルトン(右)
菊間
ランゴア・バルトンの方がレオヴィル・バルトンよりメルロの比率が高いので、同じオーナーのワインですがすみわけができているのもいいですね。
井黒
余談ですが、レオヴィル・バルトンのラベルには立派なシャトーが描かれていますが、実はシャトーはないのです。もともとレオヴィル・ラスカーズの畑を分割したため醸造所がなく、ランゴア・バルトンでワインは作られています。
レオヴィル・バルトン、ランゴア・バルトンは木製の発酵樽を使用して、伝統的な造りをしているのに対して、ピション・バロンはステンレスタンクを使用して最新の醸造技術を駆使して造られているものです。
テイスティングを終えて
――プリムールの魅力とはなんでしょうか?
菊間
アナウンサーをやっていた時にプロデューサーに95年のムートンをいただいたのがボルドーワインにはまったきっかけです。
弁護士になった初日にそのワインを開けて当時の苦労などを思い出して感動しました。
ワインはそういった楽しみ方ができるところが面白いです。
プリムールは20年購入していますが、どんなワインかわからなくて買う楽しみ、開ける楽しみがあります。
6本は少し多いいかなと思うのですが、そんな時は友達と一緒に買って分けています。
あと、株と違って絶対に値段は下がらないし、わたしはワインセラーの前でワインを眺めながらワインを飲むのが幸せ。だからプリムールは買わない理由がないですね。
井黒
毎年買っておくと、例えばお友達や取引先などの記念の年のワインを贈答にしたら喜ばれますよね。
――2021年の印象はどうですか?
菊間
エレガントだし、ブルゴーニュが好きという方でも手を出しやすい印象です。
井黒
ベイシュヴェルのアルコール度数が12.9%というのは驚きました。
一時期は評論家のポイントの影響で力強いワインが流行りましたが、またクラシックに戻ってきていますよね。さっきからクラシックと言っていますが、クラシックというのはフルーティ過ぎないという意味です。2021年は比較的早く飲み頃を迎えそうなので、買っておいたほうがいいヴィンテージだと思います。
――おすすめの銘柄は?
菊間
ずっと買い続けているのはカロン・セギュール。いい年とか関係なくコレクターです。
いつも迷っているうちに売り切れてしまうので、今日テイスティングした印象では、ドメーヌ・ド・シュヴァリエの赤と白は絶対買いたいです。
井黒
サン・テミリオンのテルトル・ロートブッフをご紹介したいです。
知る人ぞ知る素晴らしいワイナリーですが、6haしかなくて、手に入りづらいです。
世界中のワイン好きが注目するワイナリーです。金額も適性です。
ミジャヴィルさんのワイン造りがユニークで、樹の高さを低くして地熱でブドウの熟度を上げ、できる限り遅く摘むのが特徴です。
ただ、標高が高いので、凝縮感とエレガントさが同居するワイン。
お値段が高くて手が出ない方にはコート・デ・ブールのロック・ド・カンブもおすすめです。
井黒ソムリエによれば、2021年は少し早く飲み頃が来そうとのこと。
2018、2019、2020年の熟成を待つ間に味わいを愉しむのも良いですね。
ボルドー・プリムールは、人気のシャトーから売り切れてしまいますので、ぜひお早めにご購入下さい。
おすすめ記事
【セミナーレポート】2021ボルドープリムールテイスティング
シャトー・リューセック テイスティングレポート
ルグラン東京店オープン「シャトー・アンジェリュス」テイスティング レポート