シャトー・レオヴィル・ラス・カーズは、ボルドー格付け2級に位置しますが、時に1級をも脅かす存在と言われている「スーパーセカンド」の中でも筆頭格の存在。完璧なバランスを追及し、パワフルさと繊細さを兼ね備えたサンジュリアンの王様です。
1638年、ボルドー議会の主要なメンバーであったジャン・ド・モアティエは、ボルドーにおける大地主としても著名な人物でした。彼は自身が持つ土地の中でもブドウ造りに適した場所を選び、そこをワイン用のブドウ畑として整えていきます。以後100年以上にわたりこの土地を守り続け、ブドウ園の拡張を続けていきました。
その後、モアティエ家の当主であった女性が婿養子を受け入れる事になりました。
婿養子になった彼こそがアレクサンドル・ド・ガスク・レオヴィルであり、これが「レオヴィル」というワインの名前の由来となっています。
当時、ガスク家が管理していた畑は全体で300haを超えていたと言われており、この時点ではボルドー最大のワイン生産者となっていました。
しかしその後、フランス革命(1789-1799)が始まると、戦火により畑の多くが荒廃し、また、財産の収用と再分配の法律に則り、ガスク家の土地の所有権は二つに分割される事になります。更に1840年には、再びその土地が分割されることになります。
このようにしてガスク家の土地は3分割されることになり、それが現在のシャトー・レオヴィル・ラス・カーズ、シャトー・レオヴィル・バルトン、シャトー・レオヴィル・ポワフェレの3つのシャトーへと繋がっていきます。その中で一番大きい区画を引き継いだのが、ラス・カーズ氏でした。
1900年代、レオヴィル・ラス・カーズのマネージング・ディレクターであったテオフィル・スカウィスキー氏と彼の義理の息子のディロン氏が株を買い増す事で、彼らはその所有権を確固たるものとしました。現在はジャン・ユベール・ディロン氏が総支配人として、シャトー・ポタンサック、シャトー・ネナンのオーナーとともに指揮を執っています。
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズの特徴はカベルネ・ソーヴィニヨン由来の強いタンニンを持ちながら、メルローの柔らかさも持ち合わせており、サン・ジュリアンの中で最高の味わいを持つワインとして評価する評論家も少なくありません。1級のワインに劣らない味わいを持つ「スーパーセカンド」として認知されており、多くのワイン愛好家を今も虜にしています。
レオヴィル・ラス・カーズはボルドーの格付けシャトーの中でも最大級のブドウ園を有しており、約60%のカベルネ・ソーヴィニヨン、約20%のメルロー、約16%のカベルネ・フラン、僅かながらプティ・ヴェルドも植えられています。
畑には2つの小さな丘があり、一見なだらかに見えますが、その高低差は約15mにもなります。建物の4階相当のアップダウンがあることを考えると高低差に驚かされることでしょう。丘の頂上部分にカベルネ・ソーヴィニヨンが、斜面の底の部分にメルローが植えられています。
中でも2つの大きく異なったテロワールがこの素晴らしいワインを産み出す素地となっているのです。
以前シャトーを訪れた際、ちょうど澱引きの作業中で、昔ながらにろうそくの炎を利用しながら1樽1樽丁寧に澱引きをされていたのを思い出します。
優れたテロワールだけでなく、常に高い品質を維持し続けていることこそ、このシャトーがスーパーセカンドと称えられる所以でしょう。
ちなみに、シャトーが造るもう一つのワイン、クロ・デュ・マルキは長年「レオヴィル・ラス・カーズのセカンドワイン」として認知されてきましたが、レオヴィル・ラス・カーズとは別のブドウ園で取れたブドウを用いて作られている為、シャトーはレオヴィル・ラス・カーズとは別のラインナップの高品質なワインとして位置付けています。
一方で2007年、セカンドワインとしてル・プティ・リオン・デュ・マルキ・ド・ラス・カーズを発表しています。レオヴィル・ラス・カーズと同じ畑の若樹のブドウが用いられ、メルローのブレンド比率が高いため比較的早いうちから楽しむことができます。
シャトーのホームページでは土壌の細かな地図が掲載され、過去30年以上にわたるヴィンテージのテクニカルシートをダウンロード可能です。
ヴィンテージ選びの参考にされてみてはいかがでしょうか?
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