イタリアでワイン法が制定されたのは1963年。第2次世界大戦後、ワインで外貨を稼ぐフランスにあやかろうと、フランスのワイン法を参考にして法律を整備し輸出を増やそうとしたと言われています。確かにイタリアのワイン法は品種の多さはあるもののフランスのものによく似ていますね。
その一方で「DOCやDOCGの規定の範囲内では本当に造りたいワインができない」と考える生産者も存在しました。その代表的な造り手がトスカーナ海岸エリアのボルゲリと、キャンティの造り手たちでした。
特にその先駆けとして有名なのがサッシカイアです。
故マリオ・インチーザ・ロケッタ侯爵は大のボルドーワインファンで、シャトー・ラフィットからカベルネ・ソーヴィニヨンの苗木を譲り受け、1940年代には趣味の延長としてボルドースタイルのワインを造っていました。
ティレニア海に面するボルゲリでは、当時土着品種を使った白とロゼワインしかDOCに認められておらず、サッシカイアは「Vino da Tabola(テーブルワイン)」というカテゴリでリリースされました。これが瞬く間に世界で脚光を浴び、ボルゲリがDOCに認定されることとなったのです。
また、キャンティ地区では「キャンティ」を名乗れないサンジョヴェーゼ100%の偉大な赤「レ・ペルゴーレ・トルテ」が誕生。当時はサンジョヴェーゼだけでキャンティ・クラシコを造ることが認められず、彼らは1981年にキャンティ・クラシコ協会を脱退し、それ以降は独自のワインとしての道を歩みました。
この2つのワインの影響力は非常に大きく、以後、DOCGの規則にしばられず、国際品種をブレンドしたワインがさまざまな造り手によって生まれます。歴史の中には存在しなかった個性的なワインを全般的に「スーパータスカン」と呼ぶようになっています。
ワイン好きなら知っておきたいスーパータスカンをご紹介します。
元祖ともいえる伝説的ワイン。シャトー・ラフィットの苗を譲り受けたというエピソードのあるサッシカイアは「サッシ=石、カイア=~な場所」と名前が表すとおり、ボルドーに似た石ころだらけのまさにカベルネ・ソーヴィニヨンに最適の地質でした。フィネス、バランス、酸を備えた古き良きボルドーの味わいを目指しており、ボルドーらしさの中にイタリアワインらしい抜け感を感じることができます。ボルゲリ・サッシカイアとして、イタリアでは唯一、単独ワイナリーでのD.O.C昇格を果たしました。
アンティノリ家の当主の弟、ロドヴィコ・アンティノリ氏によって設立され、カリフォルニアのワイン生産者ロバート・モンダヴィ、フレスコバルディ侯爵の所有となり現在に至るオルネライア。「品質を何よりも大切にしたワイン造り」を唯一の哲学とし、どの工程にも徹底的にこだわり抜くオルネライアは、気候条件に左右されることのない安定した品質が魅力です。ブドウ本来の香り、味わいが最大限に引き出された官能的で優美なスタイル。シルクのように滑らかな口当たりを備えています。オルネライアが作るメルロ100%のマッセートもぜひお試しください。
ソライア<キャンティ・クラシコ地区>
イタリアワインの歴史を牽引するトップワインメーカー、アンティノリ。アンティノリ初のスーパータスカンはティニャネロですが、ソライアは、サンジョヴェーゼにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしたティニャネロの成功を受け、「その比率を逆にしたらどうか?」という遊び心から生まれたワイン。「ソライア=照りつける太陽」という名に相応しく、ボルドーワインにも引けを取らない力強さとエレガンスを兼ね備えています。
レ・ペルゴーレ・トルテ<キャンティ・クラシコ地区>
ヴィンテージごとに変わる女性のラベルが印象的な、サンジョヴェーゼ100%で仕立てられたスーパータスカンです。国際品種をブレンドした濃厚なスーパータスカンとは異なり、優雅で香り高く、凛とした酸を備え、サンジョヴェーゼの魅力を存分に堪能できます。ブルゴーニュ好きにこそ飲んでもらいたいワインです。
カステッロ・ディ・アマ ラッパリータ<キャンティ・クラシコ地区>
キャンティ・クラシコの名門が手掛けるメルロ100%で仕立てるスーパータスカン。ラッパリータの名前はイタリア語で「appeared=現れる」の意味。この畑まで登って、初めてシエナが見えるほどの標高に由来しています。世界最高峰のメルロとして知られるペトリュスに比類する評価を獲得しており、柔らかい口当たりにしっかりとした酸が特徴のエレガントなスタイルで、長期熟成がおすすめのワインです。
先ごろ、イタリア・トスカーナの歴史を変えたスーパータスカンを生産するキャンティ・クラシコ地区の16ワイナリーが集まって、「歴史的スーパータスカン委員会」を発足させたそうです。ここには、いわゆるサッシカイアのようなボルゲリの生産者が含まれていません。あくまでも彼らが主張するスーパータスカンという概念はキャンティの規定への反発から生まれたものであるという理念に基づいているからです。
ちなみに、筆者はトスカーナに滞在していた当時、赤ワインと言ったらキャンティかブルネロ、白だったらヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノで過ごしていました。サンジョヴェーゼはイタリア人の魂に深く宿っていると感じたわけなのですが、国際品種だけで作られたものも、イタリアの土着品種と融合したものも、ましてサンジョヴェーゼだけで作られたものも、個性際立つイタリアという国そのものだなと思ってやみません。
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