格付け1級シャトーに肩を並べるスーパーセカンドとして、シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ ラランド。“貴婦人”と称えられるエレガントなスタイルが特徴的で、長年ボルドーファンに愛され続ける人気銘柄のひとつです。
シャトーは、メドック格付け第1級シャトー・ラトゥールと、相続の際に分割された格付け2級のシャトー・ピション・ロングヴィル・バロンの間に位置しており、シャトーの目の前にはジロンド河とシャトー・ラトゥールの塔が見えるほどの好立地。サン・ジュリアン村にもほど近いため、まさにポイヤックらしい力強く深みのある味わいと、隣接するサン・ジュリアンのエレガントさやしなやかさが共存しています。
ただ、誰もが一度は、「長い名前だなー。発音するの面倒くさいな。どう省略したらいい?」と思ったことでしょう。
フランスでは、「ピション・コンテス」と呼ぶ人が多かったように記憶していますが、日本では通称「ピション・ラランド」と呼ばれることが多いようです。
そもそも、なぜこのような長いワイナリー名となったのでしょうか?
17世紀後半、この土地の開拓者であったピエール・ローザンの娘であるテレーズが、ボルドー市議会の初代議長であったジャック・ド・ピション・ロングヴィル氏と結婚をしたことで、このワイナリーは「ピション・ロングヴィル」という名称で呼ばれるようになります。
その後、1850年、相続によりシャトーは二つに分割されます。
結果、兄弟はピション・バロンを、姉妹はピション・ラランドを受け継ぎました。
シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランドという名は、この時にシャトーを引き継いだ次女が、ラランド王朝の当主であったアンリ・ド・ラランド氏と結婚氏をしていたことに由来し、「コンテス・ド・ラランド=ラランドの王女」と呼ばれるようになりました。
このように二人の男性の名前が冠されたため、かくも長いワイナリー名が誕生したわけですが、名前の由来とは裏腹に、設立直後から女性による管理が続けられてきたというのは面白い話です。
17世紀から18世紀という、まだ女性が社会的な地位を確立していなかった時代にあって、3代にわたり女性主体の管理が行われていたというのは非常に珍しい事例であり、注目に値します。
更に1978年、のちに”女将”とも言われたランクサン夫人は、シャトーの改装、ステンレス発酵槽の新設、樽貯蔵室の拡充などを行い、品質の向上に貢献しました。今日のシャトーの名声築いたのは、ランクサン夫人だと言っても過言ではないでしょう。
2007年から著名なシャンパーニュメゾン、ルイ・ロデレールのオーナー、ルゾー家の所有となり、その後も積極的な投資を続け、ワインの品質を高めていきます。3層からなる見事なセラーの建設や、ビオディナミを取り入れ、テロワールの持つポテンシャルを最大限引き出すように取り組んでおり、ワインの味わいの方向性も大きく転換させています。
メルロ由来の丸みのあるタンニンが特徴でしたが、カベルネ・ソーヴィニョン主体のよりオーセンティックな味わいを目指す所としました。徐々にカベルネ・ソーヴィ二ヨンの比率が増え、2013年にはシャトー史上初めてカベルネ・ソーヴィニヨン100%で造られたことで大きな話題となりました。
また、2012年にモンローズで活躍した若き醸造家ニコラ・グルミノー氏がワインメーカーに就任し、醸造所のリノベーションを実施し、区画ごとの醸造をより厳密に行うことで、より緻密なスタイルに変化しています。
最後に、忘れてはいけないのがセカンドラベルのレゼルヴ・ド・ラ・コンテスです。
ラベルには女性オーナーの「ランクサン夫人」が描かれており、このシャトーの歴史をものがたっているようです。ファーストラベルに比べると、メルローの比率が高く、比較的リーズナブルな価格で彼らの味わいの特徴を楽しむ事ができます。
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