メドック格付け第4級ながら、その品質の高さから「格付け2級に匹敵する」と評されるシャトー・ベイシュヴェル。ラベルに描かれた船のイラストでもおなじみで、「メドックのヴェルサイユ宮殿」と呼ばれる程、ボルドーで最も美しいシャトーの一つであると言われています。
シャトーは1565年にフランソワ・ド・フォア・カンダル氏によって建設され、ベイシュヴェルの地所を受け継いだカンダル氏の姪とこの土地を治めていたエペルノン公爵とが結婚します。図らずもシャトーのオーナーとなったエペルノン公爵は人徳者として知られており、多くの民衆から尊敬されていました。船乗りたちは彼に敬意を表すため、船でジロンド川を渡る際には、シャトーの前で帆を下げ、「ベッセ・ヴワール」(帆を下げよ)と叫んでいたそうです。これがシャトー名称の由来になっていると言われています。
その後何度もの所有者の変遷があり、1740年、ド・ブラシエ公爵が所有権を受け継ぎます。彼は評判の落ちたワイナリーの再建に尽力し、1755年には現在に残る美しいシャトーを完成させました。1801年、海運業を営んでいたジャック・コント氏がシャトーを買収しますが、航海に出てほとんど帰らない主人を見かねて、彼の甥であるワイン商、ピエール・フランソワ・ゲスティエ氏が経営権を引き継ぎ、シャトーの改革に乗り出します。彼は地所を整備し、生産量を追い求める事よりも、高品質なワインを造ることに注力しました。そして1855年、メドックの格付けで、シャトー・ベイシュヴェルは4級の格付けを得ます。さらに1866年、彼の努力の結果が実り、国際品評会で金メダルを受賞するまでにワインの品質を向上させました。
1875年、シャトーは銀行家のアルマン・アイン氏に売却されます。彼もまたゲスティエ氏と同様に、品質の追求を続け、フィロキセラによって壊滅的な被害を受けた畑の樹の植え替えなどを積極的に行いました。
ところで、シャトー・ベイシュヴェルは、外観はヴェルサイユ宮殿の様なフランスのオーセンティックな建設様式でありながら、内装はアメリカ的な要素があると言われています。これは彼の妻のマリーがアメリカ出身で、遠いフランスの地でホームシックにならない様に、シャトーの左側に建物を建設し、内装をルイジアナ調に仕上げたからだそうです。
その後アイン氏が亡くなると、妻のマリー氏が本格的に経営を引き継ぎ、1974年には、セカンドラベルであるアミラル・ド・ベイシュヴェルをリリースします。これにより、選果がより厳しい基準で行われるようになり、ファーストラベルのシャトー・ベイシュヴェルの品質も更に向上します。
1984年、シャトーの所有権は保険会社大手のGMFグループに移り、日本のサントリーグループと提携し、グラン・ミレジム・ドゥ・フランス社を設立。サントリーグループが経営に参画し、現在はサントリーの出資会社でもあるフランスの大手ワインメーカー、カステル・フレール社がシャトーの運営を引き継ぎ、醸造設備を一新。グラヴィティ・フローを導入した最新の醸造設備を導入し、ガラス張りのモダンな醸造施設がひときわ目を引く存在です。約90haの畑は川に近いデュクリュ・ボーカイユ周辺、サン・ジュリアン南部などにも点在しており、区画別に醸造することで異なるテロワールを表現しています。
また、シャトー・ベイシュヴェルでは2005年から減農薬栽培を行っており、一部の畑ではオーガニック栽培を導入し、テロワールと環境の保護に取り組んできました。こうした取り組みでピュアな果実味が前面に押し出され、メルロの比率が高く他のボルドーワインと比べると、比較的早い時期からも楽しめますが、10年~40年の長期熟成にも耐えられる骨格も兼ね備えており、長期間楽しめるということも、シャトー・ベイシュヴェルの特徴です。
シャトー・ベイシュヴェルはメドックの格付けのシャトーにしては珍しく、一般のワイナリー訪問も受け入れています。
受付時間は時期によって異なりますが、シャトーのホームページから予約も可能です。ツアーは英語ですが、日本語のサイトが用意されておりますので、フランスへ旅行された際は訪れてみてはいかがでしょうか?
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