ベストセラー『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』、『高いワイン』著者の渡辺順子氏による新刊記念企画の第2弾。今回のテーマは「ガレージワイン」についてです。
ビジネスエリートなら知っておきたい、ベンチャー企業のようなスタートアップから、たちまち一流のワインの仲間入りとなった革新的なワインについて、その魅力を語っていただきます。
「ガレージワイン」の火付け役 シャトー・ヴァランドロー
「ガレージワイン」という言葉が聞かれるようになったのは1990年代半ばのことでした。ボルドーの歴史ある銘醸シャトーと違い、醸造設備に資金を使わず、まさにガレージのようなセラーで醸造を行なっていたことから「ガレージワイン」と呼ばれるようになりました。
タンニンが強く、長期間の熟成を必要とする典型的なボルドーワインに反して、果実味が豊富で長い熟成を要さないその新しいスタイル、さらに近代的な醸造で作られる味わいが大きな反響を呼び、世界中で支持を集めるようになりました。
ガレージワインの前身と言われるのが1979年設立の「シャトー・ルパン」ですが、ガレージワインムーブメントを決定づけたのは「シャトー・ヴァランドロー」です。世界的な権威であるワイン評論家、ロバート・パーカー氏が「1995年産のシャトーヴァランドローは、ペトリュスより素晴らしい」とコメントしたことから爆発的な人気となり、価格が一気に高騰しました。
一躍、高級ワインの仲間入りを果たしたシャトー・ヴァランドローですが、その歴史は決して長くありません。醸造家のジャンルーク・テニュヴァン氏により、1991年サンテミリオンに設立された歴史の浅いシャトーです。デビューからわずか数年で脚光を浴びたことから「シンデレラワイン」との別名がつき、その独自の醸造法から「マイクロシャトー」「スーパーキュベ」と呼ばれることもあります。ただし、「ガレージワイン」としてメディアに取り上げられる一方、その出来栄えに関しては賛否両論があり、あまり質の良さをコメントされることがありませんでした。
ところが2012年、サンテミリオンの格付け見直しで「第一特別級B」に昇格したことで、その品質が公に認められることになりました。1995年産でパーカー氏の大絶賛を受けた後も、着々と実力をつけたシャトーは、2000年に入ってからもその品質を安定させ、2008、09、10年産で過去最高の高評価を獲得したのです。それらの評価に押されるかたちで、とうとう2012年の格付け見直しによって、名実ともに一流シャトーの仲間入りを果たしたのでした。
現在、テニュヴァン氏は、自身のワイン醸造にとどまらず、さまざまな地でコンサルタント業務を行い、活躍の場をさらに広げています。「ガレージワイン」の火付け役となったデニュヴァン氏を師と仰ぐ醸造家も多く、そのスタイルは各地で受け継がれています。
2011年には、カリフォルニア州のパソ・ラブロスにて、初めてガレージワインのフェスティバル「ガレジストフェスティバル」も開催されました。職人肌のワインメーカーたちが、独自のスタイルを駆使したワインを発表する場として、127ものワイナリーが出店し、その規模は年々広がっているようです。
大手がM&Aを重ね、独占的な市場に傾いているワイン産業ですが、一方でこうした個性的でオリジナリティー溢れるワインを醸造する生産者も増えています。テニュヴァン氏から始まった「ガレージワイン」も、今後、さらなる成長を遂げていくことでしょう。
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