ベストセラー『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』、『高いワイン』著者の渡辺順子氏による新刊記念企画の第3弾のテーマは「ボルドーの格付」。フランスを代表する銘醸地であるボルドーは、如何にしてその地位を確固たる物にしたのでしょうか。
ボルドーワインの格付
19世紀中頃、ボルドーワインを世界に知らしめた歴史的な出来事がありました。1855年に開催されたパリ万国博覧会にて、皇帝ナポレオン3世が世界中から集まる人々へのアピールを目的にメドック地域で生まれたボルドーワインの格付けを行ったのです。それが「メドック格付」です。メドック地区にあるシャトーの優劣を制定したもので、メドックでつくられるワインに1~5級の5等級で格付けが行われました。
このマーケティングは大成功を収めます。ボルドーの豪壮なシャトーの姿とその赤ワインは世界中へと発信され、ボルドーワインのレベルを誇示する絶好の機会となりました。当時、この格付にエントリーしたシャトーは700とも1000とも言われますが、その中から選び抜かれた61のシャトーは現在も別格扱いであり、そのマーケティング効果は今なお続いています。現在ボルドーには約6000のシャトーが存在すると言われていますが、格付シャトーはその中のほんの一握りだけです。格付シャトーは、ボルドーワインのレベルをはかる指標にもなっています。
その格付も1855年から大きな変更はありません。シャトー・ムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)が2級から1級へ、シャトーカントメルルが5級に変更されましたが、それ以外は大きな変更が認められず、旧世界の歴史の重みを感じさせる存在となっています。
1級シャトー
メドック格付けにおいて1級を獲得したのが、ラフィット・ロスチャイルド(ロートシルト)、ラトゥール、マルゴー、オーブリオン、そして1973年に1級に昇格したムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)です。この5つのシャトーは、通称「5大シャトー」と呼ばれ、歴史、品質、名声、そのすべてで1級に値する風格を持ち合わせた、ボルドーワインの絶対的な象徴として君臨しています。
長い歴史の中でも5大シャトーは様々な逸話を残し、常に人々の所有欲や購買意欲を刺激してきました。たとえばベルサイユ宮殿での権力争いでもラフィット派とマルゴー派が登場し、ボンパトゥール夫人はラフィットを、デュバリー夫人はマルゴーを気に入り、そこでも二人は競い合っていたようです。今も昔も変わらず、人々のハートをとらえ続けるのが1級シャトーなのです。
ただし、各シャトーは決してその歴史や名声の上にあぐらをかいているわけではありません。厳しい品質管理のもとトップを走り続ける努力を惜しまず、その結果、長年不動の地位を確立し続けているのです。
2級シャトー
1級シャトーに続く2級には、14のシャトーが格付けされています。中でも1級にも負けない品質を提供し、味も価格も1級に近いシャトーは「スーパーセカンド」と呼ばれ、注目を集めています。その代表格が、「コスデストュルネル」「レオヴィルラスカース」「ピション・ラランド」「デュクリュボーカイユ」「モンローズ」などです。これらは、時に1級以上の評価を得ることもあり、毎年クオリティを高める注目のシャトーです。
たとえば、コスデストュルネルは2級の中でも群をぬいて高品質なワインを提供するシャトーです。スーパーセカンドの筆頭と言われ、ラベルにも描かれるオリエンタルな雰囲気の醸造所が特徴的です。また、ラスカーズもスーパーセカンドの代表と称されるシャトーです。高級ワインを専門に取引するLiv-ex社の2017年の調査では、ボルドー左岸のシャトーで8番目に高い価格で取引されていることがわかっています。ラスカーズは、熟成後に醸し出されるビロードのような口当たりが特徴です。
3~5級シャトー
3~5級には42のシャトーが選ばれました。ボルドーの黄金時代と呼ばれた格付け当時、1級、2級シャトーは海外や王室などに顧客を確保し、着々とシャトーを拡大していていきましたが、これら3~5級シャトーはフランス国内を中心にしのぎを削っていたのが実情です。その後も、ボルドーを襲った害虫フィロキセラ、戦争や大恐慌など、シャトーの維持すら困難な時代が訪れましたが、それらを乗り越えたのが今なお存在する3~5級のシャトーの面々なのです。
中には、格付け見直しが行われれば、間違いなく昇格すると言われるシャトーも数多く存在します。たとえば、ハートのラベルでお馴染みのカロンセギュールは昔から根強いファンが存在し、格付3級の中ではトップに筆頭するシャトーのひとつです。また、一時は廃業寸前だったシャトー・デュアールミロンも、現在は1級シャトーであるラフィット・ロスチャイルドに買収され、「ラフィットのセカンドワイン」と呼ばれるまでに成長しました。また、現在もっとも成長株として注目を集めるのが「ポンテカネ」です。評論家の大絶賛をうけ、今後も価格の高騰が止まらないと言われています。
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