ボルドーのワイン街道を車で走ると、フランス・オランダ・イギリスの国旗が掲げられた均整の取れた美しいシャトーが目に入ります。
メドック格付け3級のシャトー・パルメ。
多くのワイン愛好家を虜にしているこのシャトーに、何故3か国の国旗が掲げられているかご存じでしょうか。
シャトー・パルメの歴史
シャトー・パルメが位置する一帯は、12世紀頃にはこの地域でワイン造りが始まっていたという記録が残されているほどですが、当時は、無名な一続きの畑に過ぎず、ここから世界を代表するワインが産まれるとは誰も想像していなかったことでしょう。
元々は同じくマルゴー村の格付け3級、シャトー・ディッサンが所有しており、畑の区画を整理した際、地元の名士としても知られていたガスク家の手に渡りました。
当時はドメーヌ・ド・ガスクという名前で販売され貴族の間で親しまれていたそうです。
ガスク家の当主であったマダム・ガスクは「この土地はシャトー・ラフィットと同じ程のポテンシャルを持っている」と語ったといわれており、ポテンシャルの高さがうかがえます。
1814年、イギリスのチャールズ・パーマー将軍がドメーヌ・ド・ガスクを購入。
早速自身の名前のフランス語読みである「パルメ」をワイナリーの名称に冠し、以降、「シャトー・パルメ」と呼ばれる事になりました。
パーマー将軍は、ワインの品質を向上させるとともに、彼自身の政治的なコネクションを用いて、ワインの輸出を試みます。
ワイン好きとして有名であったイギリス王ジョージ4世が、お気に入りのワインとして愛飲していたのがシャトー・パルメです。
シャトー・パルメの名声は、フランスのみならずイギリスにまで轟きわたる事になりました。
残念ながら、将軍は経済的な理由でシャトーを失い、投資家のペレール家を経て、マーラ・ベッセ家とシシェル家が、大株主として現在に至るまでシャトーを管理しています(実際にはパルメには小株主も合わせると合計22人の株主がいるようです)。
こうして、オランダ出身のマーラ・ベッセ家、イギリス出身のシシェル家にちなんで、現在シャトーにはフランスに加えて、オランダとイギリスの国旗が掲げられるようになりました。
シャトー・パルメは、マルゴー地区の中心部にあり、格付けは3級でありながら、各批評家から高い評価を受けています。
その品質の高さから、3級にもかかわらず、格付け1級と2級シャトーの間くらいの価格帯で取引されており、シャトーの生産管理を担当してきたのは、主にマーラ・ベッセ家でした。
余談ですが、マーラ・ベッセ家はワイン好きの間ではよく知られたワイン商。
「オールドヴィンテージならマーラ・ベッセものを」と言われるほど、ヴィンテージ・ワインに精通しています。ボトルの肩口にマーラ・ベッセ(Mahler Besse)のシールが貼付されているのが目印。状態の良い熟成ワインを味わいたいなら、一度お試しください。
1995年、著名な醸造学者として知られていたトーマス・デュロー氏を迎え、栽培技術の向上に努めました。2004年にはビオディナミ農法を取り入れ始め2017年にビオディナミの認証を取得。更に2010年にはシャトーの大規模な改築にも取り組み、近代的なバレルセラーを建築します。
このような不断の努力の結果、シャトー・パルメの評価は2010年以降高まっており、その地位を不動のものとしています。
シャトー・パルメの特徴は、何といっても高いメルローの比率です。
実際シャトーの作付面積のうち、約半分をメルローが占めており、残りの約半分がカベルネ・ソーヴィニョンで、少量のプティ・ヴェルドも植えられています。
これらのブレンド比率を年ごとにブドウの出来に合わせて調整する事によって、非常に柔らかく、しかし芯の通った味わいのワインが毎年作られています。
そして、シャトー・パルメのセカンドラベルといえば、アルテ・レゴ・ド・パルメ。
このワインはセカンドとして知られていますが、実際にはシャトー・パルメとは異なる区画の畑から収穫されたブドウが用いられている為、シャトーもセカンドワインと呼ばれる事を望んでいません。
「アルテ・レゴ」とはラテン語で「分身、無二の親友」という意味で、“もうひとつのパルメ”として仕立てられたワインです。
シャトー・パルメに比べると、柔らかい飲み口で早飲みにも適しているのが特徴です。
最後にご紹介するのは、古い文献により明らかになったワインを復刻しようとスタートしたプロジェクト。
驚くことに、当時のシャトー・パルメは、ボルドーのブドウの代表的なブレンドに加えて、シラーを加えていたかもしれないのです。
「19世紀にシャトー・パルメがリリースしていたかもしれないワインのオマージュ」として誕生したヒストリカル・19th・センチュリー・ブレンドは、85%のボルドーブレンド(カベルネ・ソーヴィニョンとメルローが半々)に、15%のシラーを加えたワインです。
ローヌ地方のシラーを使用しているため、AOC上の表記はヴァン・ド・ターブルとなっていますが、流通量も200~300ケース程度といわれ、その希少性から、高値で取引されているワインの一つとなっています。
200年前のワインの味わいが再現されているなんて、夢がありますね。
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