シャブリは、ブルゴーニュ地方の中でも北限のエリアに位置し、そこで生まれるワインのスタイルも他のエリアにはない独自のキャラクターを持つ。
「シャルドネから造られる白ワイン」と問われれば、シャブリを真っ先に連想する方も多いのではないだろうか。
「生牡蠣にはシャブリ」。この組み合わせは、料理とワインのマリアージュの定番の一つとしてよく語られる。実際にこの組み合わせを試してみると、これがまた素晴らしいハーモニーを奏で、お互いの味わいを見事に引き立て合う。
厳密に言うと、牡蠣にもそれぞれ育った海の個性がはっきりと現れ、その産地を意識してワイン(もしくは日本酒やウイスキーなど)を合わせて食べると、より見事に調和する。
しかしシャブリは、様々な産地の牡蠣それぞれと上手く調和するという点では、他の飲み物よりも優れているように思える。口に入れた時の「ミネラル」が何倍にも増幅するマリアージュは、必ず体験していただきたいペアリングの一つだ。
シャブリのブドウ畑が広がるエリアの土壌は「キンメリジャン土壌」と呼ばれ、はるか昔、まだこの土地が海底にあった頃に堆積したと言われるたくさんの牡蠣の貝殻が混じる石灰質である。単純に「土壌に牡蠣の貝殻があるからそのニュアンスがワインにも存在し、だからこそ生牡蠣に合う。」というふうに考えるのは、いささか安易にも思えるが、確かによく合うのは間違いない。
そして、実際にこのミネラル豊富な土壌から生み出されたワインには、やはり香りにも味わいにもミネラルのニュアンスが充分に表現されている。
例えば海の近くのエリアであれば、海からの潮風の影響を受け、「Salinity サリニティ」と表現される海水のような塩気をワインの香りや味わいに帯びることで魚貝類とよく相乗することは、説得力のある切り口となり得る。
だがしかし、シャブリのブドウ畑はフランスの内陸部に位置する。
シャブリははるか昔は海底であったのだ。その大地の記憶がワインにも映し出され、見事に海の幸とマリアージュするというのは何とも神秘性を感じるではないか。
そして、この「生牡蠣とシャブリ」のマリアージュの素晴らしさのもう一つの大きなポイントとして私が考えるのは、醸造面での観点からみて、「マロラクティック発酵」からくる影響である。
「マロラクティック発酵」とは、ブドウ本来が持つ「リンゴ酸」が乳酸菌の働きにより「乳酸」へと変化する発酵のことであり、この発酵により、乳製品のような香りが生まれると同時に、酸味もまろやかな印象へと変化する。
牡蠣は「海のミルク」と形容されるように、そのミネラル感と共になんとも言えないクリーミーで芳醇な味わいが特徴だ。
シャブリが持つ貝殻や石灰のようなミネラル香。マロラクティック発酵からくるクリーミーな香りと味わい。これらの共通性が上手く重なり合うことで、あの何とも言えない素晴らしいハーモニーが生まれる。
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