数年前、「南西フランス最高の造り手」と称される、アラン・ブリュモン氏を訪ねる1週間の旅に同行させていただくという、とても貴重な機会をいただいた。
この地方は、ボルドー地方の上流域に位置することから、イギリスを始めとする海外との交易の拠点を持つことが難しく、常にボルドーワインの影に隠れがちな存在となってしまった歴史的な背景を持つ産地である。
そのような中で彗星の如く現れたのが、先にご紹介したアラン・ブリュモン氏である。
ブリュモン氏は、この地方の伝統品種タナを使い、A.O.C.マディランにおいて世界最高峰のワインと充分に渡り合える赤ワインを生み出し、世界中を震撼させた。
ある年に行われた、ワイン専門家が揃うブラインドテイスティング審査においては、ボルドーの5大シャトーにも匹敵する評価を受けたという。
タナは、「タンニン(渋みのこと)」という言葉の語源にもなったと言われるほど、まさに渋みが強いとされてきた品種で、やや敬遠されるイメージがあったが、このブリュモン氏が造る「シャトー・モンテュス」は、その熟れたタンニンと凝縮した果実味、エレガントな酸味とのバランスが、見事なまでに調和していることに驚かされる。
そして、現地でも有名なフォワグラと一緒にいただくことで、さらにその真価を発揮する。
ブリュモン氏自身も、フォワグラは毎日食べるほど大好物で、常に口にされるのは、「ワインは常に料理と共に味わうことで、その真価が発揮される」ということだ。
ある世界的に有名なフレンチシェフは、「もしフランスが、仮に南西地方を失ったとしたなら、フランスの良質な食材の80%を失うことになるだろう。」と言ったという。
この地方は、フォワグラやトリュフ、キャビア等、フランスが世界に誇る食材がここにはあふれ、まさに食材の宝庫と言える。
このタナから生まれたワインをその土地の料理と一緒にいただくことで、多くの人々がその言葉に深く納得することができるであろう。
そしてこの南西地方には、マディラン以外にも、もちろん素晴らしいワインが多数存在している。
赤ワインとして、マディランと同じくらい有名なのが、「黒いワイン」の異名を持つカオール。
マルベック(地元では、コットと呼ばれる)ブドウ品種から造られ、こちらもクオリティの高いワインとして認知されている。
マディランと同一エリアで造られるパシュラン・デユ・ビクヴィルは、遅摘みのブドウから生まれる甘口ワインで、トロピカルフルーツのような芳醇な香りが魅力だ。
さらには、トップクラスのソーテルヌ(ボルドー地方の貴腐ワイン)にも匹敵するという、甘口ワインの最高峰ジュランソンも必ず味わいたいワインの一つだ。
マディランは、温製のフォワグラととても相性が良いが、このジュランソンは、冷製のフォワグラテリーヌにハチミツを添えていただくと、まさに最高のマリアージュが完成する。
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