現在、世界のワイン造りにおいてビオディナミは一過性のブームを通り越し、一つの主流になりつつあります。それは誰もが知る、歴史あるワイン産地・ボルドーでも同様で、今日においては多くのシャトーがワイン造りにビオディナミを取り入れています。

さて、その走りとなったのはどのシャトーかご存知でしょうか?
今回テーマに取り上げる、シャトー・ポンテ・カネです。ここではシャトー・ポンテ・カネに焦点を当て、あらゆる角度からその特徴をご紹介いたします。

シャトー・ポンテ・カネとは?基本的な情報をご紹介

18世紀初頭、法律家でありながら当時メドック地区の知事でもあったジャン・フランソワ・ド・ポンテ氏が、ポイヤック村の畑を徐々にその手に増やしていく中で、「カネ」という有名な区画を購入したことから始まったシャトー・ポンテ・カネ。

シャトー名はこのルーツに由来するようです。 まずは、重ねた年数に比例して名声を集める、シャトー・ポンテ・カネのプロフィールをご紹介します。

恵まれたテロワール

5大シャトーの畑に接する絶好の立地

ブドウの列が整然と並ぶ約80ヘクタールの畑は、5大シャトーの1つ、シャトー・ムートン・ロスチャイルドと北側の堺を接します。
基本的には深い砂利と粘土、石灰岩の土壌で、川側にはメルロー、シャトー側にはカベルネ・ソーヴィニヨンが多く植えられています。

テロワールの力を信じる、こだわりの栽培・醸造

「私たちはワインメーカーではない。グローワー(ブドウ栽培家)だ」

Vineyards of Chateau Pontet-Canet, Pauillac, Bordeaux, France

シャトー・ポンテ・カネの所有畑には、平均樹齢45年のカベルネ・ソーヴィニヨン約6割、メルロー約3割、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドが少量ずつ植えられています。

耕作にはトラクターなどの重機では無く、馬を用いることで有名です。馬は重機と比較して格段に軽く、同じところを重ねて踏むことがないため、ポンテ・カネの畑の土は柔らかく、ふかふかとしています。
こうした土壌には空気や光がよく入り、ミミズなどの生物の生息にも適した環境となるため、好循環が繰り返されるのです。

また、ポンテ・カネはエコセールからのオーガニック認証ビオディヴァンからのビオディナミ認証の両方を格付けシャトーで初めて取得したシャトーです。2005年には完全にビオディナミになり、2007年を最後に、完全に農薬散布なども廃止しています。

ビオディナミについては、「格付・取得認証」の章にて詳細を後述しております。

あらゆる作業が人の手で行われるべき

収穫したブドウはつぶれない様に浅いトレーで運ばれ、人の手で2回の厳しい選果を経て、2017年からは除梗も手作業で行っているといいます。

その後、天然酵母を用いて2~3週間、アンフォラを中心としたタンクで発酵し、マセラシオン(浸漬)は1週間程行われます。
醸造に用いる円錐型のコンクリート製の容器は畑の粘土から作られており、メルロー向けの槽には粘土が、カベルネ・ソーヴィニヨン向けには礫が含まれています。

また、ワイナリーでは栽培と醸造に電気をできる限り用いないことを重要視しており、畑の地熱を発電に利用している徹底ぶりです。

熟成は基本的に新樽比率約50%のオーク樽で16カ月~18カ月間行われますが、近年は熟成にもコンクリート製アンフォラを導入しています。アンフォラは素焼きの粘土で作られているため、ステンレスタンクやコンクリートタンクと比べると気密性が低く、木樽同様にワインに微量の酸素を供給することになります。

また一方で、アンフォラは一般的に内部が蜜蝋でコーティングされているため、ステンレスタンクと同様に容器由来の風味をワインに移らせないということも、特徴として挙げられます。
アンフォラで造られたワインは、木樽で造られたワインのような好気的要素によるまろやかに角が取れた味わいと、ステンレスタンクで造られたワインのような、テロワールと果実味のピュアな表現を兼ね備えた味わいとなるのです。

ブレンドはヴィンテージによって調整され変動しますが、おおよそカベルネ・ソーヴィニヨン6割、メルロー3割、その他をカベルネ・フランとプティ・ヴェルドで補われます。

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味わいや飲み頃の目安

甘美で華やかなアロマと濃厚な果実味が魅力

シャトー・ポンテ・カネは並外れた努力とこだわりの造りのもと、他のポイヤック村のシャトーとも一線を画す、密度の濃い果実味と舌触り滑らかな質感を生み出します。プラムやインクの黒みを感じる要素に、ジビエやキノコの野性的な香りが入り混じる複雑なアロマが印象的で、濃密な果実味とよく熟して溶け込んだタンニンは長く心地よい余韻に続きます。

ポンテ・カネの飲み頃はいつ?

高評価を獲得した2010ヴィンテージなどは、70年後まで飲み頃が続くとまで推察されるポンテ・カネ。
ヴィンテージや保管状況によって熟成可能年数は異なるため、一概に提示することは叶いませんが、そのヴィンテージから10年~15後以降は本領が発揮され始めることが多く、更にこの時期から後10年程を飲み頃といえるのではないでしょうか。

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シャトー・ポンテ・カネが手掛ける銘柄

シャトー・ポンテ・カネでは、セカンドワインとしてレ・オー・ド・ポンテ・カネという赤ワインを造っています。
こちらについては、「稀少なセカンドワイン」の章にて詳細を後述しております。

シャトー・ポンテ・カネの評価は?格付けや取得認証について

方々から賞賛を集めるポンテ・カネの評価

世界的に影響力のあるワイン専門誌において「ポンテ・カネのクオリティは格付け5級をすでに超えている」「ボルドー左岸において、アルフレッド・テスロン氏はこの10年間において最も注目すべき大転換を行ってきた一人である」などと讃えられるシャトー・ポンテ・カネ。

ワイン・アドヴォゲイト誌においては2009年、2010年と2年連続してパーカーポイント100点満点の評価を得ており、これもシャトー・ラトゥール、シャトー・オー・ブリオン、シャトー・モンローズに並ぶ快挙です。

また、ロバート・パーカー氏が「格付け1級に匹敵する20シャトー」を選出した際は、シャトー・ピション・ラランドやシャトー・コス・デストゥルネルなど、いわゆるスーパーセカンドとならべて、このシャトー・ポンテ・カネの名前も挙げたことでも有名です。

パーカーポイントの評価による影響と高得点がつけられるワインの特徴

格付、取得認証

1855年ボルドー・メドック格付け第5級
2010年エコセール・オーガニック認証
2014年バイオダイナミック認証(左岸では初めてのビオディヴァン認定)

渡辺順子氏 × TERRADA WINE MARKET特別企画 Vol.3 ボルドーを世界に知らしめたメドック格付

ビオディナミの先駆者、シャトー・ポンテ・カネ

さて、ポンテ・カネを語る際に決して切り離すことのできない「ビオディナミ」。
そもそもビオディナミというのは、オーガニック栽培などワイン造りの一種です。ビオディヴァンという認証機関が認定する農法で、化学薬品などを用いずに様々な厳しい規定をクリアしたものに与えられる認証です。

「オーガニック」とひとくくりにされる中でも、この認定は最も規定が厳しいといわれていますが、これによりブドウの粒はよりそのハリ・艶を増し、凝縮した果実味を蓄え、ワインとして出来上がった時には純粋なテロワールの反映を魅せるといいます。

実はハードルの高いビオディナミ農法

最近はビオディナミを始めとしたビオ認証を名乗るワインが多く登場し、トレンドの1つとも捉えられますが、オーガニック栽培がしやすい乾燥したエリアに畑があり、管理がしやすい小規模な造り手が実践していることがほとんどです。

一方でボルドー地方は、オーガニック栽培が難しいといわれている産地です。ボルドーは元々湿地帯であり、年間降雨量が比較的多いこと、海や川が非常に近くにあること、これらの湿潤要素からブドウの樹に病害が広がりやすいという特徴があります。

さらに、シャトー・ポンテ・カネのような大規模なシャトーでビオディナミを行うには、畑を細かくチェックするための管理能力と人手を確保するのに、一体どれほどのコストを要するでしょう。
収量が激減するリスクを抱えた農法でもあるビオディナミを大規模生産者が採用する背景には、非常に大きな、経営存続と政治的なリスクに対する相応の覚悟があるのです。

このように、決して妥協しないテロワール、ワイン造りへのこだわりこそが、シャトー・ポンテ・カネの評価の素地にあります。

シャトー・ポンテ・カネの歴史、市場価値の変遷など

ここでは3世紀にわたる、シャトーの長い歴史をご紹介します。シャトー・ポンテ・カネは、どのようにして現在の地位を確保するに至ったのでしょうか。

シャトーの歴史・主導者の移り変わり

1705年

メドック王室の知事であるジャン・フランソワ・ポンテ氏がポイヤックに土地を購入し、ブドウ畑を作りました。
シャトー・ポンテ・カネの「ポンテ」という名称は、氏の名前から、「カネ」という名称は、氏の子孫が土地を買い増した際に、「カネ」と呼ばれる区画を購入した事に起因しています。

1855年

パリ万博に向けてナポレオン三世がボルドーの商工会議所にメドックのシャトーの格付けを依頼した際に、シャトー・ポンテ・カネは5級の格付けを得る事になりました。
この頃から品質へ称賛の声はあったようですが、当時はまだシャトーが荒廃していたことから、5級に留まったのではないかといわれています。

1865年

ボルドーで最も成功したワイン商の一人であったヘルマン・クリューズ氏がポンテ・カネを購入しました。
彼は巨万の財力を以て新しいセラーや近代化された醸造施設を造ることで品質向上を図り、これに伴い評価は高まっていきました。この頃、シャトー・ポンテ・カネのワインは、フランス国鉄のパリ~コートダジュール間における寝台列車のレストランでもサービスされていたといいます。

1972年~1973年

ブドウが不作のこの時期、複数のワイナリーや他産地のブドウを混ぜてシャトー・ポンテ・カネとして販売するという不正が暴かれました。シャトーの財務状態は急激に悪化し、クリューズ家はシャトーを手放さざるを得なくなってしまいました。
また、得た利益を当時のフランス首相への政治献金として使用していたということも明るみになり、積み上げた実績と信頼は一気に失墜することとなります。

1975年

コニャックの仲買人として成功し、シャトー・ラフォン・ロシェのオーナーでもあったギー・テスロン氏がシャトー・ポンテ・カネの買収に名乗りを上げました。

彼はシャトーの所有権を手に入れると、地に落ちた評判を立ち直らせるため、すぐに積極的な行動に出ます。当時は畑も荒れ果てており、沢山の植樹が必要でしたが、安定した品質でワインを供給できるように努め、数年前とは見違えるような高品質のワインを造り出しました。

メドックでは珍しい、地下セラーや貯蔵庫の改修も行い、1982年にはセカンドワインを登場させることにより果実の選別も厳しく行うようになりました。

1989年

ジャン・ミシェル・コム氏はシャトーの技術責任者になると、すぐにシャトー・ポンテ・カネのテロワールが持つ類まれなポテンシャルに気付きました。このポテンシャルを最大限に活かそうと考えていたところ、ちょうど時期を同じくして、1994年に息子のアルフレッド・テスロン氏がシャトーの経営を引き継ぎ、共にシャトーの改善に注力していきます。

1994年

二人は畑とセラーに多額の投資をして環境を徹底的に整備。出来上がったブドウにも非常に厳しい選果を施した結果、以降は名実ともに一級シャトーに迫るトップシャトーへと成長し、ひと際注目を集めるまでになりました。

2004年

ビオディナミを実践し、ついに彼らはエコセール、ビオディヴァンといった認定を得るに至りました。
彼らの努力は確かに結実し、近年では格付け5級であるにもかかわらず、1級と同程度の評価を得ている、いわゆる「スーパーセカンド」のワインの一員として認知されるようになっています。

シャトー・ポンテ・カネの当たり年と参考価格

当たり年

1990年、2000年、2005年、2009年、2010年、2015年、2016年、2018年

2009年と2010年にはかの有名なワイン評論家のロバート・パーカー氏が100点を付けています。

参考価格

ヴィンテージ、保管状況などにより変動しますが、おおよそ15,000円~35,000円でしょう。

シャトー・ポンテ・カネの商品一覧はこちら
※売り切れの際はご容赦ください。

稀少なセカンドワイン、レ・オー・ド・ポンテ・カネ

前述の通り、シャトー・ポンテ・カネはセカンドワインとして、1982年以降からレ・オー・ド・ポンテ・カネというワインを手掛けています。
ブレンドはおおよそカベルネ・ソーヴィニヨン6割、メルロー3割、その他にカベルネ・フランとプティ・ヴェルドが用いられます。
熟成は1年使用した木樽を用いて12カ月前後行われます。

しかし2012年、このレ・オー・ド・ポンテ・カネは、「生産地域の特徴的な味わいを有していない」という理由でAOCポイヤックの分類を拒否されてしまいました。

これにより彼らはレ・オー・ド・ポンテ・カネを、最も低いAOCであるヴァン・ド・ターブルで販売する事を余儀なくされました。オーナーのアルフレッド・テスロン氏はこの決定に納得できず、この年以降、このセカンドワインの生産量を著しく減らし、ファーストラベルであるシャトー・ポンテ・カネの生産に一層注力しています。

ここにも彼らのワインに対する哲学を垣間見る事ができます。
彼らは最新の科学技術に頼り切る事なく、その土地が持つポテンシャルを最大限引き出す事に焦点を当て続けた結果、現在の様な極めて高いクオリティを実現出来る様になったのです。

私たちはワインメーカーではありません、栽培者なのです
この言葉にこそ、彼らの哲学が凝縮されています。
私たちはシャトー・ポンテ・カネを飲む時、彼らの揺らぐ事ない哲学を感じ取る事ができるでしょう。

TERRADA WINEの保管サービスをご紹介

さて、ここまで長期熟成のポテンシャルも備えた、格付け以上の品質・評価を誇るシャトー・ポンテ・カネをご紹介しましたが、このように上等なワインを手に入れた時の保管に困る方も少なくないでしょう。

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