ブルゴーニュでも最南端に位置するこのボージョレ地区は、ブルゴーニュ最大の面積を誇り、マコンの南からリヨン周辺まで、ソーヌ川に沿って南北に55km、緩やかな起伏に富む丘陵地帯となっている。
日本では「ボージョレ・ヌーボー」という「新酒」が有名なのは、もはや私が言うまでもないと思うが、ワインを普段あまりお飲みにならない方でも、その解禁日が迫れば、「ワイン」という存在を意識するようになるまで、フランスだけでなく、遠く離れたこの日本の地でも、「新酒で今年のブドウの収穫を祝う」という文化を定着させたのが、このボージョレ・ヌーヴォーと言っても過言ではない。現に今、世界で最もボージョレ・ヌーヴォーを輸入している国は日本だという。
私はソムリエの仕事をしながら、一時期、もしかしたら一過性のブームで終わってしまうのではないか、と思ったこともあったが、もはやブームを完全に乗り越えて「文化」のレベルにまで定着してきている。
毎年、11月の第三木曜日の0時を待って、日本のあらゆる場面で、ヌーボー解禁パーティが行われている。それほどやはり、この新酒を祝うという文化が日本人に合っていたのだろうが、かと言って他の国の新酒もいろいろとその後出回りはしたものの、ボージョレ・ヌーヴォーほどのヒットを生み出した例は他にはない。
やはり「ヌーボー」は、ボージョレでなければならないし、その味わいや背景を含めてこれほどまでになったのであろう。そう言う私も毎年解禁日にボージョレ・ヌーヴォーをいただくのを、いつもとても楽しみにしている。
では、ボージョレ・ヌーヴォーについて、最後にここにまとめてみるとしよう。
収穫したばかりのガメイから造られるフレッシュなワインは、1800年代頃から地元ではリヨンの人々の手軽な地酒として飲まれるようになった。第二次世界対戦後、フレッシュさと飲み易さからパリで広まり、やがてヨーロッパでも人気となり、そして現在のように世界に輸出されるようになった。
販売開始日は元々年によって異なっていたため、一度政府により11月15日が販売開始日と定められたが年によっては解禁日が休日と重なり運搬に影響が出てしまうということで1985年より「11月の第3木曜日に全世界で一斉に解禁」に変更された経緯があるという。
さて、ヌーヴォーの話ばかりになってしまったが、ボージョレ地区にはもちろんさまざまなワインが他にも存在する。ただし品種は、概ねガメイで造られる。
その中でも特に注目に値するのが「クリュ・デュ・ボージョレ」と言われる、ボージョレ地区の中で最上のブドウが育つ、10の村の名前が付いたガメイ種から造られる素晴らしいクオリティの赤ワインも必飲の価値がある。
このボージョレ10村からは、ブルゴーニュの上質なピノ・ノワールに全く引けをとらないほどの赤ワインが生まれる。そして、その中でも特に高い評価を得ているのが「ムーラン・ナ・ヴァン」「モルゴン」「フルーリー」「ブルーイイ」。
もしブラインドテイスティングで、これらのクリュ・デュ・ボージョレのワインが出題されたとしたら、プロのソムリエでさえも、ピノ・ノワールと間違えることなく正しく判別することは、決して容易ではないだろう。
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